草原の椅子

大人の青春が輝く物語

どこにでもいる中年の男にこんなにも多くの出会いや出来事が起こる。同じ中年男の筆者が見ていて、こんな事あり得ないだろうと思いながらも、あればいいなという夢を見させてもらった心温まる映画である。

物語はバツイチで年頃の娘と二人暮らし、カメラメーカーの営業マンの遠間憲太郎に、50歳で三つの出会いが訪れる事で始まる。
ひとつは、取引先の社長・富樫に親友になってくれと懇願され、付き合い始めたこと。
もうひとつは、ふと目に留まった独り身の女性・貴志子の店に入り、陶器を購入するうちに淡い想いを寄せるようになったこと。3つめは、親に見離された幼子、圭輔の面倒をみるようになったこと。
この4人を軸に物語は進み、大人3人が交流を深めていく中で、圭輔の将来を案じ始める。
心に憂いや悩みを持つ大人と、幼いにも関わらず深く傷ついてしまった少年。めぐり逢った4人は、ある日、異国への旅立ちを決意する・・・。

最初は回りの強引なやり方にどんどん引きずられて大変な思いをしてしまう遠間を見て、だから人や面倒な事と関わるのは嫌なんだよな~と思ってしまった。富樫の押しの強いキャラクターも苦手だし、貴志子との最初の出会い方も無理やりな感じだし、娘が勝手に面倒を見だした圭輔を何で家にまで連れて来られて世話しなきゃイカンのだと、もう見ていてイライラしてしまった。でも、見ているうちになぜかそのイライラは忘れてしまう。そして、人との縁や関わりとはこういうものなのだと思わせられる。

人と本当に関わり合うという事は、いいところ取りなんて出来ないものだと思う。関われば関わる程、面倒な事も抱え込んでしまう。その面倒な事は、絶対に嫌だという態度を最初は遠間も取っていた。それが人生を安全に無難に生きるコツなのだ、そうでなくたって仕事も大変なんだから。
しかし、そうやって人生をシンプルに片づけてしまった後に、いったい何が残るというのだろう。そんな生き方をして50歳にもなってしまえば、人生を彩る出来事などもう何もないだろう。だから、例え人と関わって大変な思いをしても、それでも関わり続ける事が人生を彩る出来事を作る幸せの種なんじゃないかな。多くのトラブルを乗り越えた後に幸福感がやって来るという誰しもがした事のある経験、人と関わるとはまさにそういうプロセスを経る事なのだろう。そう考えると、最初のトラブルだらけの遠間の大変な姿も、今まさに幸せの種がまかれている所なんだと思えてきた。憂いを抱える大人3人と子供1人が関わり合い苦しみながらも最後には強く繋がる。それはまさに生活しかない地から、苦労してフンザという桃源郷に向かう様なもの。だから、面倒を拒否せず、向き合う事、関わる事が大事なんだと思えた。

余談になるが、この映画はお酒を飲むシーンがとてもいい。遠間と富樫がサシ飲みで語り合う酒、貴志子や遠間が一人で飲む酒、大人3人が和食の店やパキスタンで飲む酒。筆者が酒好きだからフンザの素晴らしい景色よりそんなところに目がいくのかもしれないが、一人で飲む時でさえも人との繋がりを感じさせてくれるいい場面になっているので、そんなところもちょっと注意して見てみるのも一興かと思う。

▼作品情報▼
出演:佐藤浩市 西村雅彦 吉瀬美智子
原作:宮本輝「草原の椅子」(幻冬舎文庫・新潮文庫刊)
脚本:加藤正人 奥寺佐渡子 真辺克彦 多和田久美 成島出
監督:成島出
エグゼクティブプロデューサー:原正人
制作:『草原の椅子』製作委員会 東映 東映ビデオ
配給:東映
(C)2013「草原の椅子」製作委員会
2013年2月23日(土)全国ロードショー

■公式サイト
www.sougennoisu.jp/

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