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ブラッドリー・ク-パー、ついに演技派開眼か!?

妻の浮気で心のバランスを崩したパット(ブラッドリー・クーパー)は仕事も失い、妻にも去られる。妻を諦めきれない彼は、頭と身体を鍛えて“理想の夫”になることを決意。しかし、同居する父(ロバート・デ・ニーロ)と母(ジャッキー・ウィーヴァー)の心配どおり、彼の思いは空回り。そんなときパットは風変わりな女性ティファニー(ジェニファー・ローレンス)と出会う。彼女もまた夫を亡くしており、心に大きな喪失感を抱えていた・・・。

今年の第85回アカデミー賞で作品・監督・主演・助演の主要部門含む8部門候補の話題作。特に演技部門全てでの候補入りは、何と31年ぶり、『レッズ』以来の快挙だ。筆者が本作を観たのはノミネーション発表後。いったいどんだけスゴいのよ?と思っていたのだが、役者陣は文句のつけようもないほど素晴らしくて、心にグイグイ入り込んできた。

分けてもパット役ブラッドリー・クーパーには瞠目。実は私め、彼はこれまで苦手な役者の一人だった。セクシーな男優ナンバー1ともてはやされていたが、どうも納得いかなかった。まあ、顔立ちが多少整っているのは認めるが、筆者には目が爛々で、舌出してハァハァ言ってる、ギラついた犬という印象だったのだ(ファンの方、ごめんなさい)。『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』も、『バレンタインデー』も、もう(悪い意味で)胸掻きむしりたくなるほどで・・・。自分がセクシーだと自覚して演じているという自意識過剰に思え、気色悪かったのです(ファンの方、重ね重ね申し訳ないです)。

それが本作のブラッドリーときたら、どうだ。持ち前のギラつき感が封印され、表情はどこかパッとしない。しかも妻を寝取られている有様。セクシーさを自認する(はずの)オトコが演じるには、ギャップのある役だ。だが、妙に板についている。感情の起伏が激しく、就寝中の両親に絡み、破天荒な言動を繰り返すティファニーに振り回される様子は、こういう“壊れた”人っていそう・・・という説得力がある。また、妻への未練やティファニーに対する沸き上がる温かい感情、常に心配してくれる両親への思いなど、繊細な心の動きを丁寧に演じていて、不覚にも(?)グッときた。特に、ティファニーとダンスコンテストに臨む終盤は、もう滑稽で笑っちゃうのだが、ティファニー役ジェニファー・ローレンスとの化学反応もあり、「よっしゃー!」とガッツポーズしたくなるくらい、のめり込んで応援してしまったほどだ。

もしかしたらブラッドリーは、セクシーさを前面に押し出すよりも、演技で勝負したほうが合っているのかもしれない。何と言ってもアクターズ・スタジオの出身だ。ジャック・ニコルソン、アル・パチーノ等の名だたる俳優を輩出した、あの演技学校である。最近NHKBSプレミアムで再放送された『アクターズ・スタジオ・インタビュー』にゲスト出演したブラッドリーが「デ・ニーロが好き」と語っていたが、そのデ・ニーロが以前本番組に出演した際(デ・ニーロもアクターズ・スタジオ出身)、在学中のブラッドリーが質問していた映像も流れて、感慨深かった。時を経てデ・ニーロとは『リミットレス』でも共演を果たしているが、本作では親子の役だなんて、本当に嬉しかっただろうし、気合いも入ったことだろう。

その甲斐もあってか、今年の賞レースを賑わせているブラッドリー。いよいよ演技派開眼か?これまでの筆者の苦手意識は、見事にひっくり返った。もう「生理的に受け付けられない」とか言いません(反省)。『バレンタインデー』では、“女性にも誠実な好青年だが実は○○でした”的なオチの笑顔にドン引きだったのだが、見返してみればなかなかに爽やかで。今後はアクターズ・スタジオで培った演技力を駆使して、また別の顔を見せてほしいところ。筆者的ブラッドリー・クーパー観の転換をみせた、記念すべき作品となった。

▼作品情報▼
監督・脚本:デヴィッド・O・ラッセル
原作:マシュー・クイック「The Silver Linings Playbook」
出演:ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロ、ジャッキー・ウィーヴァー、クリス・タッカー
原題:Silver Linings Playbook
2012年/アメリカ/123分
配給:ギャガ
(C)2012 SLPTWC Films, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://playbook.gaga.ne.jp/
2013年2月22日(金)よりTOHOシネマズシャンテ、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

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