『レッド・ライト』ロドリゴ・コルテス監督インタビュー:超常現象という証明できないテーマだからこそ、説得力のある作品にしたかった
超能力者VS科学者チームという興味深いテーマを扱った本作。ロバート・デ・ニーロがその貫禄で伝説の超能力者を演じ、シガーニー・ウィーバーとキリアン・マーフィーが超常現象を暴こうする科学者を熱演する。登場人物のセリフや、しぐさはもとより、計算された構成や照明が、観るものに“脳の錯覚”を引き起こさせ、謎解きを仕掛ける。監督は、『[リミット]』のロドリゴ・コルテス。プロモーションのために初来日したコルテス監督にお話を伺った。
ーー前作『リミット』と全く違う作風ですが、本作を作ったきっかけを教えてください
コルテス監督(以下、監督):超自然や超常現象というのは、説明がつかないものですよね。信じることと人をだますということは相対することですが、それらがくっついてはじめて成立するのが、超常現象をネタにしたビジネスなんです。その兼ね合いが面白いと思いました。
ーーこの世界観を構築するうえで気を配ったことは何ですか?
監督:証明できないものを扱っているので、だからこそ、観客が体感できるような現実感のあるもの、説得力があるものを描きたいと思いました。参考にしたのは70年代のポリティカルスリラーで、例えば『大統領の陰謀』とかですね。
この映画を本当に正確に見ているのか、なんか見過ごしてはいないか、と自分自身を疑いながら観ていただきたいです。
ーーロバート・デ・ニーロが演じる伝説の超能力者と対決する科学者にキリアン・マーフィーを選んだ理由を教えてください
監督:二面性を持っていて、豹変できるような俳優を求めていました。そして、キリアンのことはロマンティックコメディーを一瞬にしてホラーに変えられる人だと思っていました。
ーー鳥を使う演出が印象的でしたが、なぜ鳥を使おうと思ったのですか?
監督:レッドライトとは違和感を発しているもののことです。注目や警戒を促すものであり、劇中にはレッドライト以外にもそういう対象物がたくさん出てきますが、鳥もそのひとつです。鳥に関していえば、不思議な体験をしたのですが、ある日曜日、自分のオフィスで働いていたら、すごく大きな音がして、鳥が窓ガラスに激突して死んでいたんです。翌日キリアンに会ってその話をしたら、ちょうど同じような時刻に、彼の部屋の窓にも鳥が激突して死んだそうです。このエピソードをどう捉えるかは人それぞれだと思いますが、そういう現象があったことは事実です。
ーー映画というメディアに求めるものを教えてください
監督:作り手が自分の語りたいことを映画の中できちんと語る、自分はそういう映画が好きです。そして、事実でなくとも真実を語ってもらいたいと思っています。作品には個人的な見解を求めていますが、それが僕自身の考えと共鳴していなくてもいいのです。映画を見ている時間だけは、違う世界に誘って欲しいと思います。
ーー冷戦時代には超常現象の研究も盛んに行われていて、伝説の超能力者シルバーもその頃に全盛を迎えていたという設定ですね。ブランクを経て、なぜ彼はいま再び復活したのでしょうか?
監督:どんな時代にも問題や危機がありますが、人というのはその説明を求めています。どうしてこういう状況なのか、こんな社会になってしまったのか、と。そして何かにすがりたい、何かを信じたいという気持ちになるのだと思います。70年代と今とでは簡単には比べられない状況ですが、70年代当時はもう少し社会がナイーヴで物事に対して信じやすい傾向があったと思います。だけど、今はみんなシニカルです。シニカルでありながら何かすがりたいという気持ちは人一倍持っている。精神的にとても複雑な状況のなかにあると思っています。
人は常に答えを求めていますが、たいていの場合、与えられた答えを簡単に受け取ってしまい、信じてしまう傾向にあると思います。それは責任を取らずにすむ安易な方法だけど、とても危険なことだと思います。
ーーラストシーンの超能力者VS科学者の直接対決について
監督:ハリウッド的な派手なバトルではなくて、言葉と言葉のバトル、内面的な対峙を描く、よりシェイクスピア的なシーンにしたかった。自分自身、答えを出す映画ではなく、質問を生み出す映画が好きだから、というのもあります。
(取材後記)監督曰く、本作はリサーチに1年半、脚本の執筆に2ヵ月を費やしたという意欲作。本作を作るにあたり「説得力のある物語にしたい」と語っていたが、たしかに劇中では、超能力者も科学者もどちらも真実を話しているように思えた。超常現象を扱ったテーマであるがそれだけでなく、それに翻弄される人々の心の弱さを描いている。エンドロール後におまけ映像があり、監督は「僕の作品はエンドロールの後に必ず映像が入ってますが、それは最後まで見てくれた人へのプレゼントなんです」とのこと。どうぞ、最後までお見逃しなく!
2013年2月15日(金)より、TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー!
▼ロドリゴ・コルテス Rodrigo Cortes
1973年生まれ。16歳より短編やPV演出を手掛け、2010年に長編2作目となるワンシチュエーションスリラー『[リミット]』をサンダンス国際映画祭に出品。6時間待ちの長蛇の列、最高150ドルまで値がつり上がったチケット、上映ごとに起こるスタンディングオベーションなど、映画祭における事件のひとつとなった。同年のゴヤ賞10部門ノミネート、3部門受賞の快挙を成し遂げた。本作が長編3作目となる。
▼『レッド・ライト』
監督:ロドリゴ・コルテス
出演:ロバート・デ・ニーロ、キリアン・マーフィー、シガーニー・ウィーバー、エリザベス・オルセン
製作:2012年/スペイン・アメリカ/113分
配給:プレシディオ
公式サイト:www.red-light.jp
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