【YFFF_2013】『ローカル・サッカー・クラブのヒーロー』クラブは誰のもの? 今も昔も変わらず、ファンのものです

(ヨコハマ・フットボール映画祭2013上映作品)
舞台は1970年代のイタリア。サッカーの視点で言えば、1部リーグのセリエAは、イングランド、ドイツ、スペインと並び、欧州4大リーグと称され、世界中に多くのファンを持ち、他のリーグを寄せ付けない強さを誇る。ただ、そこの国民であれば、誰もがサッカー好きと錯覚しがちだが、決してそういうわけではないようだ。本作の主人公ベニートは、父親の死去により、セリエBへの昇格を狙うサッカークラブ「ボルゴロッソ」のオーナーを引き継ぐ。だが、サッカーに関してとにかく頓珍漢。何とこれまでサッカーを見たことがないという(イタリアなのに!)。試合を観戦しても、ゴール=得点ということすら理解できていない無知ぶり。おまけに、早々にチームを売却か解散させようとする有様だ。

やがてベニートは行きがかり上、サッカーの楽しさに目覚め、クラブの運営に注力するようになるのだが、かなりのズレっぷりで(体重130㎏の選手を獲得するなど、恐らく普通ではあり得ない・・・)、もう抱腹絶倒もの。そんなベニートに扮するのは、アルベルト・ソルディー(1920~2003)。日本での公開作は少ないが『素晴らしきヒコーキ野郎』(65)などにも出演し、ゴールデングローブ賞やベルリン、ヴェネツィア等の国際映画祭での受賞歴もある、イタリアの国民的名優だ。彼の軽妙、かつクソ真面目でピントがずれている演技は、一見の価値がある。

とにかくベニートのハチャメチャぶりが楽しい映画ではあるのだが、どうしても気になるのは、いわゆる経営陣の現場への過度の介入だ。ベニートはチームが不振に陥ると、自分が雇った怪しげな南米人監督を無視して、自ら指導を買って出る。そのワンマンぶりは、映画として端から見ている分には充分に笑えるのだが、もしこれが自分の好きなチームだったらどうだろう。チェルシーが好きな筆者としては、仮にも、万一、オーナーのアブラモビッチ氏がいきなり現場の指揮を執り始めたらどうなるのか。チームへの愛情は変わらねど、やはり経営陣には不信感を持つだろう。ただでさえ、アブラモビッチ氏がオーナーになってからの短期間での監督交代劇を見ていることもあるしなぁ・・・なんて複雑な思いになってしまう。

なので、ベニートのクラブを何とか昇格させたいとの思いからの孤軍奮闘ぶり(充分に空回りなのだが)も理解できるのだが、その一方で、そんなオーナーに不満を持つサポーターの気持ちも分からなくはないのだ。ソルディーの突き抜けた好演はとても魅力的なのだが、その脇でチーム状態に一喜一憂する支援者やファンの様子にも、注目してもらいたいと思う。

それにしても、この映画、本当に素敵なハッピーエンドを迎える。関係者に散々迷惑をかけまくったベニートが最後にとった行動は、喝采もの。彼が自分のためではなく、初めてファンを思ったことだからだ。いつの時代も、サッカークラブは経営者のものではなく、ファンのもの。サッカーを愛するファンあってのクラブ。そんなこともさらりと伝えていて、心温まる。

そう考えると、アブラさんもランパードの契約更新を早々に決断してくれないかしら。チェルシーのことを考えると、そんな不満をもらしてしまう。アブラさんもヨコハマ・フットボール映画祭に来て、この映画観てくれないかな・・・なんて、つい苦笑してしまった。

▼作品情報▼
原題:Il presidente del Borgorosso Football Club
監督:ルイジ・フィリッポ・ダミーコ
音楽:ピエロ・ピッチオーニ
出演:アルベルト・ソルディー
イタリア/コメディ/108分/1970年 配給:Avanz Entertainment Inc.,
舞台:1970年代イタリア
©Produzioni Atlas Consorziate s.r.l., Roma Italy

【ヨコハマ・フットボール映画祭2013開催概要】
開催日時:2013年2月11日(月/祝)、16日(土)、17日(日)
開催場所:ブリリア ショートショート シアター
横浜市西区みなとみらい5-3-1フィルミー2F  TEL:045-633-2151
アクセス:みなとみらい線・新高島駅4番出口徒歩5分、みなとみらい駅2番出口徒歩5分
※上映時間の詳細、トークショーゲストなどの最新情報は映画祭公式サイト、ツイッター @yokohamafff フェイスブックページ facebook.com/yokohamafff にて随時案内。

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