【YFFF_2013】『ソカ・アフリカ』“運”に翻弄される、サッカー選手を夢見る少年たち

2013年02月07日（木）

（ヨコハマ・フットボール映画祭2013上映作品）
アフリカ出身のサッカー選手といえば、誰を思い浮かべるだろうか？やはり、ドログバ（コートジボワール）、エトー（カメルーン）というあたりになるか。彼らのピッチ上での輝きは、サッカーファンの心を強く揺さぶる。ましてやサッカーで身を立てることを夢見るアフリカの少年からすれば、彼らは母国のヒーロー以外の何者でもない。自分もスター選手になりたいと願うのも当然の成り行きかもしれない。

しかし、そんな子供の純粋な夢を、欲にかられた大人が食い物にしている現実もある。本作は、私たちが日頃見聞きするスター選手の栄光の歩みとは対極的な、サッカー市場の闇にフォーカスしたドキュメンタリーだ。

残念ながら悪辣な代理人が存在することが、本作を観て思い知らされる。彼らは「欧州のクラブからのオファーがある」「入団テストのため現地に連れて行くから渡航費だけは負担してほしい」などと言葉巧みに本人や親を誘う。いかにも胡散くさい話なのだが、貧しく教育の機会もない彼らからすれば、千載一遇のチャンスとばかりに飛びついてしまう。家族のため、自分自身のため、と。しかし、そこからが悪夢の始まりだ。

本作に登場するカメルーン出身のサボは、代理人に騙されパリに連れてこられた。結局、どこのチームとも契約は結べず、彼は捨てられ、駅などで寝泊まりするホームレスと化す。サッカーどころか食事など日々の生活に困窮する有様だ。これが特殊なケースではなく、彼のようなアフリカ人の少年が多数存在しているというのだから、衝撃的だ。

一方、南アフリカ出身のカーミット･エラスムスは、やはり代理人の目にとまり、オランダに渡り、フェイエノールトと契約を結ぶ。チームのサポートも手厚く、頭角を現した彼は、2009年のU-20W杯エジプト大会では代表選手として、得点を挙げるなどの活躍を見せた。彼の場合は、超一流のトップスターというわけではないが、サポーターからも愛され、代表のユニフォームを着ることもできた。ある程度の成功例と言えよう。（ちなみに、エラスムスが出場する試合や南ア代表チームのロッカールームやミーティングの実写の様子もカメラに収められていて、なかなかに興味深いし、サッカーが好きな者としては素直に嬉しくなる。）

ここまでサボとエラスムスの落差を見せつけられると、二人の違いは何だろうか、と考えてしまう。彼らのサッカーの実力差は、本作からは簡単に推し量れないのだが、明らかに違ったのは代理人の差だ。代理人の善し悪しは彼らの「運」ということになるのだろうか。

運？なんて不条理なんだ、と憤りたくもなる。もし、エラスムスとサボの代理人が逆だったら？パリの路上を彷徨っているのはエラスムスだったのかもしれない。サボはもしかしたらカメルーン代表として、エトーと一緒にプレイしていたかもしれない。「運も実力のうち」「人との巡り合わせも成功の秘訣」とか言うが、本作のケースの場合を簡単に運が良かった、悪かったで片付けてしまうのは、何とも納得がゆかない。本来ならサッカー選手を目指す全ての少年が、法的に正規のルートで夢への足がかりを得なくてはならないはずだ。

こんな状況続くなか、2007年にCulture Foot Solidaire (CFS：若年の選手を売買や搾取から守るNGO）が設立された。だが、恐らく今も欧州のビッグクラブへの加入を目指して、アフリカの年端もいかぬ少年が海を渡っているのだろう。そんな彼らの夢を踏みにじり、命の危険にまでさらすような現実がある。一流選手の血湧き肉躍るようなプレイの影で、恐ろしい実態が潜んでいることも、サッカーファンとしては目を背けてはいけないのだろう。そんな問題意識を高めてくれるドキュメンタリーと言える。

【ヨコハマ・フットボール映画祭2013開催概要】
開催日時：2013年2月11日（月/祝）、16日(土)、17日(日)
開催場所：ブリリアショートショートシアター
横浜市西区みなとみらい5-3-1フィルミー2F　 TEL：045-633-2151
アクセス：みなとみらい線・新高島駅4番出口徒歩5分、みなとみらい駅2番出口徒歩5分
※上映時間の詳細、トークショーゲストなどの最新情報は映画祭公式サイト、ツイッター @yokohamafff フェイスブックページ facebook.com/yokohamafff にて随時案内。

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