世界で絶賛された青春映画『ももいろそらを』 小林啓一監督インタビュー:不安定な時代だからこそ、明るくて元気なキャラクターを描きたかった

「未来からみれば、今は過去になる。だからこそ今をしっかり意識すべき」。そんな思いを登場人物の女子高生に託し、モノクロームの中に鮮烈で、瑞々しい世界を描いた小林啓一監督。テンポ良く交わされる軽妙な会話や丹念な演出によって、移ろいやすい青春の時が浮かび上がる。デビュー作となる本作で、第24回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞、その後もサンダンス、ロッテルダムなど世界14カ国の国際映画祭で注目を浴びている。そして昨年11月に行われたスペインの第50回ヒホン国際映画祭で見事、グランプリを受賞した。日本人初受賞(グランプリ)の快挙を成したばかりの小林監督にお話を伺った。


ーーそれぞれのキャラクタ−が自然に息づいている女子高生3人組がとても魅力的でしたが、3人とも映画初出演ですね。どのようにキャスティングが行われたのでしょうか?
小林啓一監督(以下、小林):僕もプロデューサーも無名で過去作もないので、脚本を持って、役者の所属事務所にあたったんです。そのなかで、オーディションというより顔見せという感じで4人に会い、あの3人が決まりました。主演の池田愛に関しては、本当にぼーっとしていて、やる気がなさそうな感じでしたね(笑)。宣材写真でも変なポーズをとっていたので、「なんでこんなポーズにしたの?」って聞いたら、「やれって言われたので」とあっけらかんと答えたので、(演出に対して)こちらが言ったことを疑わずに、恥ずかしがらずにできる子なのかなと思って、決めました。

ーー社会の閉塞感も背景に描かれていますが、池田愛が演じるいづみのキャラクターのおかげで、カラッとした爽やかな作品になっていますね。彼女のモデルはいるのでしょうか?

いづみ役の池田愛

小林:いえ、特にいません。社会が暗い状況だからこそ、明るくて元気なキャラクタ−を描こうと思ってました。被害者面するのが好きじゃないので、現状を変えていこうというムーブメントになれば、という気持ちもありました。

ーーそれは監督が若者に期待するところなのでしょうか?
小林:若い人もそうですが、僕らの世代(40歳前後)も、人のせいにしたり、何かを待っているだけではなく、自分で動いていくことが大事だと思います。

ーーなぜ本作を撮ろうと思ったのですか?
小林:今までも映像業界にいたのですが、自分から発信することは一切なく、受注したり、ルーティンワークだったり下請けみたいな感じでした。テレビのプロデューサーとかと話しているうちに、求められているものとやりたいことの差が広がってきて、それに文句を言っている自分も嫌だったし、覚悟を決めてやる側にならなきゃダメだと思ったんです。

ーー2035年という設定とモノクロにした理由を教えてください
小林:いづみが16歳だった当時を回想するという設定にしたので、過去の出来事を表現するためにモノクロにしました。2035年にしたのは、いづみが今の自分と同じ年齢になるからです。自分自身、考えていることが若い時とあまり変わってなかったり、同じようなことをずっと続けています。昔と変わらず今でも、無意識に人を傷つけているかもしれないけど、そういうことも含めて自分を全て受け入れなきゃ、という思いもありました。

ーーいつも新聞記事を採点しているいづみが、自分で記事を書いてみたら「つまらない」と言われ、落ち込むシーンがありますよね。あれは、監督なりの批評家批判だったりするのでしょうか?(笑)
小林:いえいえ、それはないです(笑)。 うーん、でもネットで匿名でブツブツ言っているような人は意識していたかもしれませんね。いづみにもそういうところがあって、言ってることは面白いんです。だから、もっと声を大にして、どんどん行動していけばいいのにと思います。下請けをやっていて文句を言っていた頃の自分に対する、自己批判的なところはあると思います。

ーーラストシーンの煙突の煙ですが、黒澤明監督の『天国と地獄』を意識されましたか?
小林:そのまんまやっちゃうと黒澤明監督の(作品と同じ)になっちゃうね、という話をプロデューサーとしました。煙に色を付けるかは悩んだところではありますが、いづみがあのような気持ちになったということの方が重要だと思ったので、ああいう形になりました。

ーー劇中で交わされる会話とかラストに向けての収束の仕方などは、木下惠介の『カルメン故郷に帰る』を想起したのですが、木下作品など昔の映画はよくご覧になるのでしょうか?
小林:いえ、木下監督の作品は一度も観たことがないんです。黒澤明監督とか溝口健二監督の作品はすごく好きで、溝口監督はお墓参りにも行きました。セリフに関しては、昔の映画の方がその時代を捉えて、ちゃんと切り取っていると思います。電車でおしゃべりしている人や、居酒屋なんかで本音を言ってる人など、話をしている人はたくさんいるのに、今の映画はセリフがやたら少なかったり、特別な人だけをピックアップしているような気がします。

ーー先日の第50回ヒホン国際映画祭でのグランプリ受賞おめでとうございます。受賞を聞いた時の気持ちをお聞かせください
小林:この作品でいろんな映画祭に呼ばれたんですが、ヒホンの場合は交通費が出ないので、現地入りせずに作品だけ行きました。なので、受賞の報せはプロデューサーから電話で聞いたんです。会場に行ってないので、イマイチ実感がわかなかったんですよ。スタッフ間でお祝いしたのですが、飲んでたらテンションも上がってきて、飲み過ぎて気持ち悪くなりました(笑)。Twitterなどでは、色んな国の言葉で本作の受賞について書かれていたので、それなりに反響はあったんだなと実感しました。

ーー他の国際映画祭で、印象的な反応というのはありましたか?
小林:サンダンス映画祭で、「今はすぐに過去になってしまう」という話をしたら、心理学の教授が「北米では、そういうテーマが心理学でムーブメントなんです」と、わざわざ説明をしに来てくれました。今を意識させることで、鬱などを改善させる心理学の療法だそうです。過ぎてしまったことをいつまでも考えるのではなく、今を捉えるということ、つまり、どんどん生産され続ける“今という過去”に目を向けていると、過ぎてしまったことに囚われなくなる、ということらしいです。

ーーデビュー作でこのように世界で注目されると、次回作を撮るうえでプレッシャーにはなりませんか?
小林監督:そういうのは全くないです。まだチャレンジャーで、これからもずっとチャレンジャーなので。あ、でもサンダンス映画祭の時はすごく緊張しました。昔から憧れている映画祭だったので。次の脚本を書こうと思ってパソコンを持っていったのに、なかなか書けないんです。たぶんプレッシャーだったんだと思います。「こういうことを書いたら、サンダンス映画祭にそっぽを向かれてしまうのでは」と、余計な力が入ってました。でも、賞もとれなかったし、「まだまだチャレンジャーなのに何をやってるんだ」と、そこで気持ちが切り替わりました。

本作『ももいろそらを』はいよいよ2013年1月12日(土)より、新宿シネマカリテ ほか全国順次ロードショー!
ある日、女子高生のいづみは大金の入った財布を拾ってしまう。持ち主に返すはずが、その中のお金を介して、今まで想像もしていなかった一歩を踏み出すことになる。登場人物たちが放つ、強くて儚い輝きに心奪われ、驚きとユーモアに溢れた作品。青春映画の傑作と言えるだろう。

(取材後記)現在、次回作『ぼんとリンちゃん』のリハーサルの真っ最中という小林監督。『ももいろそらを』では2ヵ月にわたる入念なリハーサルを行ったそうだが、監督自身、とても楽しんでやってらっしゃるという印象を受けた。次作はカラー作品で、オタクのカップルが友達を連れ戻しに東京に来るという話なのだそう。どのような作品になるのか、今からとても楽しみだ。

<小林啓一監督 プロフィール>
1972年、千葉県生まれ。TV、PV、CM等、多数の映像を演出。本作が長編映画第一作。テレビ東京「ASAYAN」の番組ディレクターでキャリアをスタート。TBS「情熱大陸 北島康介」を演出。またミニモニ、DA PUMP、DREAMS COME TRUE等のPV、ライブ映像を手がける。Vシネマを経て、初長編映画『ももいろそらを』に至る。同作品は2011年東京国際映画祭「日本映画・ある視点」にて作品賞受賞。サンダンス映画祭、ロッテルダム映画祭ほか、多数の映画祭に招待を受ける。


▼『ももいろそらを』作品情報▼
監督・脚本・撮影:小林啓一
出演:池田愛 小篠恵奈 藤原令子 高山翼 桃月庵白酒
製作:michaelgion
プロデューサー:原田博志
配給・宣伝:太秦 配給協力:コピアポア・フィルム
日本/2011年/113分/16:9/モノクロ
コピーライト:(C)2012 michaelgion All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.momoirosora.jp/

「ももいろそらを」はモーションギャラリー(クラウドファンディング)にて配給資金を募集しています。
全国公開、世界公開に向けて皆様応援の程よろしくお願いします。
詳細はこちら→ http://motion-gallery.net/projects/momoiro

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)