カラカラ

心がカラカラと鳴ったら、旅に出てみよう

カラカラ1 初老の男ピエール(ガブリエル・アルカン)は、大学教授の職をリタイア後、カナダのケベック州から沖縄にやってきた。アジアの文化に触れることが、心の平安に繋がると考えたからである。高級感溢れるリゾートホテルで、気功のワーク・ショップに参加、露天風呂にゆったりと浸かり夕暮れの海と空を自分だけのものにすることで、確かに彼の心はゆっくり癒されていった。しかし、那覇の喧騒の中へ帰った彼は実感するのだ。「また日常に戻ってきた」と。

 退職後の生き方が見つからない。青年時代からの親友を亡くしたことをきっかけに感じた、若き日の理想と今の自分とのギャップ。「両親が亡くなった年齢に近づいてきた今、死が怖い。かといって生きることも怖い」彼は立ち止まったまま動けなくなってしまう。この作品のタイトル『カラカラ』とは、泡盛を入れる酒器のこと。お酒が空になると、カラカラ音がすることからこの名前が付いたという。それは、満たされないピエールの心を象徴している。リゾートホテルでの滞在は、一瞬だけ心の器を液体で満たすことができても、すぐに空になってしまう。

 彼はこれまでの人生、自分に枠をはめて生きてきたと反省しているにも関わらず、今この時点でも「菜食主義」「お酒は飲まない主義」「非暴力主義」と主義の多い人だ。そんな凝り固まった枠を取っ払い前に進んでいくのに、暴力夫から逃げ出してきた主婦純子(工藤夕貴)との出会いはとても大きい。彼女もまた心がカラカラと音を立てている人である。そんなふたりの旅はトラブル続きではあるものの、その中で彼の頑なな「主義」は、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。ピエールの訪れた場所、触れた文化は、伊平屋島の天然記念物、念頭平松(リュウキュウマツ)、伊是名島の自然や琉球王朝時代の城跡、沖縄の音楽、芭蕉布織物工房など。確かによくある観光コースなのかもしれない。けれども沖縄の自然や文化が心に沁み入ってくる。それは、ふたりで旅行をすることによって、彼の閉ざされていた心が開かれたからなのである。冒頭、ホテルで受け身だった彼とは、そこが違う。カラカラには、ふたつ以上のお猪口が付いているもの。二人で酒を酌み交わすことによって、初めて意味をなすというわけだ。

 心を開いたピエールが見たものとは…樹齢500年とも言われる念頭平松。彼はその年輪の重みに圧倒されると共に、そこに人生を見る。あるいは、芭蕉布織物工房。糸芭蕉を刈るところから始まり、一糸、一糸根気よく丁寧に織り上げられていく芭蕉布と、そこに集い黙々と作業をしていく人たちの生き方。綿々と続くその伝統。そこから彼は、忘れていた人生の真の価値を見つける。自分の人生もまだこれからなのかもしれない。そんな気持ちが芽生えていく。この作品が単なる観光映画ではなく、それ以上の輝きを放つのは、沖縄の歴史に共感を持つクロード・ガニオン監督だからこそ発見できた、沖縄の人々の生きる知恵が作品に生活かされているからだ。



カラカラ2▼作品情報▼
監督・脚本:クロード・ガニオン
撮影:ミシェル・サン=マルタン
出演:ガブリエル・アルカン、工藤夕貴、富田めぐみ
特別出演 :平良敏子(「芭蕉布」人間国宝)
原題:KARAKARA
2012年/日本・カナダ/104分
配給:ククルビジョン、ビターズ・エンド
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/karakara/
2012年モントリオール世界映画祭世界に開かれた視点賞・観客賞受賞作品
2013年1月12日(土)より沖縄シネマQ、ミハマ7プレックス先行公開、1月19日(土)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー!
(C)2012 KARAKARA PARTNERS & ZUNO FILMS

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