『レ・ミゼラブル』俳優たちの感情の動きを丸ごと伝える新たなミュージカル映画の誕生

 ミュージカル映画の要は当然ながら歌とダンスである。理屈ではなく、そこから伝わる情感が観客の心にどれだけダイレクトに届くかどうかが勝負。誰もが知る名作『ウエスト・サイド物語』(61)やオスカー受賞も記憶に新しい『シカゴ』(02)は、どちらかというとエネルギッシュなダンスナンバーの数々で魅了した作品だが、『レ・ミゼラブル』は100パーセント、歌唱。セリフを一切排し、歌声だけでどれだけストーリーを語れるのか。それを成功させるためには、トム・フーパー監督が本作で採用した芝居と一緒にライブで歌を収録するという方法は必然だったのだろう。
 歌を同時収録するため、フーパー監督は登場人物のソロパートをクロースアップの長回しでとらえ、俳優たちから溢れ出す感情を撮りこぼさない。プロデューサーのキャメロン・マッキントッシュ氏は来日会見の際「(ブロードウェイで初演された)25年前にこのキャストは集まらなかった。今だからこそ撮れた映画」であると語っていたが、まったく仰る意味がよく分かる。ハイレベルな要求に応えた俳優陣の力量が、ずばり、本作の成功を握る鍵である。
 トニー賞受賞歴もあるヒュー・ジャックマンはもちろん、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライドも生来の演技力に加え、長年ヴォイストレーニングを積んできた歌唱力で魅せる。存在感抜群のマリウス役エディ・レッドメイン、舞台でも同役を演じたことのあるエポニーヌ役のサマンサ・バークスにいたるまで、鳥肌モノの美声は必聴。そして、耳に心地よい歌声ながら、おそらく御本人の気質からくる陽気でロックなこぶしが粘着質なジャベール警部に合わない感じがしなくもないラッセル・クロウ。そのひとり若干浮いている感じに不思議とキュンとさせられるという、思わぬ魅力を発揮している。  
 ただ。このヴィクトル・ユゴーの原作、この傑作ミュージカル、このキャストが揃った時点で、映画『レ・ミゼラブル』はある程度の成功を約束されていたようなもの。本作は、それ以下ではないが、決してそれ以上にも昇華されず、格調高く、手堅く撮り切られた映画と感じるのが正直なところである。「レ・ミゼラブル」を、いま、映画に“しなければならなかった”理由が、少なくとも筆者には最後までよく伝わらなかった。
 とはいえ、動乱に身を投じる民衆の活力を生々しく映しとった映像と、そこから流れ出すエモーショナルなナンバーの数々に大満足であるのは間違いない。クリスマス、お正月にぜひ大きな映画館で楽しんでほしい1本だ。

レ・ミゼラブル
原題:Les Miserable
監督:トム・フーパー
出演:ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、エディ・レッドメイン、ヘレナ・ボナム=カーター、サシャ・バロン・コーエン
配給:東宝東和
2012年イギリス映画/12月21日(金)よりTOHOシネマズ日劇ほか全国公開
©Universal Pictures

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