【FILMeX】三姉妹~雲南の子
(第13回東京フィルメックス特別招待作品)
中国雲南省東南部の山岳地帯、標高3200mもの高地の小さな村に、三人の姉妹が暮らしている。一番上のお姉さんは10歳、続いて6歳、4歳の妹とつづく。母親は家を飛び出し行方不明である。父親は街に出稼ぎにいったまま帰ってこない。こんな幼い子供たちだけで暮らしているなんて、日本だったら大問題になってしまうところだが、この地方にはこんな子供たちがあちらこちらにいるという。もっとも近くに伯母、祖父がいて、その家で働く代わりにご飯をもらっている。馬糞を運んだり、草を刈り豚の餌を作ったり、山羊の放牧をしたり。村にはいつも濃い霧が立ち込め、道がぬかるむ中作業をしているから、洋服は泥まみれになり、靴の中にまで泥の塊がこびりついてくる。貧しく、過酷な暮らしである。
2時間30分あまりの時間、映画はひたすら彼女たちの生活を写し取っていく。ナレーションが入ったり、インタビューがされたりすることはない。食べて、働き、寝て起きて再び食べて働く。カメラの存在は極力無の存在に徹し、そんな生活をひたすら写していくのみである。それでもこの映画は飽きることがない。それが不思議である。
それは長女の存在感によるものである。子供らしい笑顔は見られない。大人のような表情で、ひたすら妹たちの面倒を見る。おやつを「お姉ちゃんにもあげる」という従弟の言葉に、「余所の人にあげられるものなんて家にはないのよ」とたしなめる伯母。人を傷つけるそんな言葉が耳に入ってきても、彼女は表情ひとつ変えることはない。泣き言ひとつ言わず、ひたすら働き続ける。そうしないと生きていけないから。それ以上でもそれ以下でもないかのように。
まるでカメラがないかのように、生活している彼女たちであるが、10歳になる長女だけは、一瞬カメラマンの存在を意識する瞬間がある。畑に野菜を取りに行く時、そこに通じる扉を閉めようとして、後ろに続くカメラにハッと気がついたかのように、それをやめる。普段はカメラの存在を忘れていても意識がないわけではないのである。彼女が籠一杯に入れた松ぼっくりを背負い、道すがら途中くたびれて休んでいる時、遠くからカメラが近づき正面に回ると、疲れた顔を見られたくないとでもいうかのように、時間を置かずに立ち上がり歩きはじめる。あるいは、彼女が真っ暗な家の中、スポットライトを当てたかのような陽だまりで、ぽつんとひとり座りジャガイモを貪っているシーンでは、ふとその存在に気が付いたような表情を見せ、ぷいっとどこかへ行ってしまう。
彼女には人に見せたくない表情が確かにあるのである。弱みを見せたくない、そんな気持がそこにあるのではないだろうか。彼女のプライドである。だからこそ、過酷な生活の中でも、惨めさというものがないのかもれない。それでも、彼女が一瞬だけ子供らしい表情を見せる瞬間がある。近所の男の子、その従妹と3人で山へ行くシーン。男の子と楽しそうにおしゃべりをし、「今度おうちに遊びに行ってもいい」と言う彼女の表情はとても明るく、その辺の子供となんら変わりがない。それに安堵するとともに、都会育ちのひ弱な筆者は、その逞しさに圧倒されてしまうのだ。
▼作品情報▼
原題:Three Sisters / San-Zimei
監督:ワン・ビン
配給:ムヴィオラ
(香港・フランス / 2012年 / 153分)
2012年ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門グランプリ
2013年初夏シアター・イメージフォーラムにて公開
(C)ALBUM Productions, Chinese Shadows
▼第13回東京フィルメックス▼
期間:2012年11月23日(金)〜12月2日(日)
(木下恵介の生誕100年祭は12月7日まで)
場所:有楽町朝日ホール・東劇・TOHOシネマズ日劇
公式サイト:http://filmex.net/2012/