(ライターブログ)【TIFF_2012】東京国際映画祭、粒揃いだった中華圏映画を振り返る

 2013 年以降の公開予定映画をざっと眺めてみるが、中国・香港・台湾映画が本当に少ない。1月公開のツイ・ハーク監督『ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝』、春公開の台湾歴史巨編『セデック・バレ』、“ついに出来たの?!”なウォン・カーウァイ監督の『グランドマスター』(初夏公開)ぐらいか。この3本がかなり強力な布陣ではあるのだが、中国本土だけでもインドを超える?といわれる本数の映画が年間作られているという状況を考えると(ゴミ映画も多いけど)、やはり寂しい限りである。まあ、ファンでなければ「みな同じ感じ」に見えてしまうカンフーアクションばかりが目立つので、飽き気味の日本の観客にはなかなかアピールできないのかもしれないが……(と言いつつ、『ドラゴンゲート』と『グランドマスター』もカンフーものではあるのだけど、前者は呆れるほどの大スケールに圧倒される面白さだし、後者も監督独自の味付けに期待)。

 今さらではあるが、先月開催された東京国際映画祭2012の中華圏からの出品作を振り返ってみたい。これがなかなか良作揃い。まだまだ隠れた佳作がいっぱいあるだけに、余計に日本で公開されるチャンスが少ないのが惜しい。

『風水』

 まず、映画祭開幕ギリギリの制作会社の“出品辞退”が作品以上に話題になってしまったコンペティション部門の『風水』。べらぼうに気が強く、上昇志向の塊のような母親のパワーが空回りして家庭が崩壊していく様子を描いた作品で、ぜひ監督・キャスト・スタッフには来日いただき、お話をうかがってみたかった。この母親像に急激な経済発展を遂げた中国の歪みを投影させてみる向きもあるが、私はむしろ、人間の本能むき出しのパワーを感じた。ある程度の娯楽や嗜好品を手に入れられる日本の庶民とはやや感覚が異なるかもしれないが、本当にぎりぎりの生活を送るこの映画の主人公らにとって、食べることと男女のことは、活きるための基本。主人公はちょっと人より美しく、ちょっと人よりそのエネルギーが過剰であったばかりにボタンを掛け違っていく。そんな女の顛末を演じたイエン・ビンイエン(顔丙燕)がとても魅力的だ。

『老人ホームをとびだして』

 イェンさんが印象をガラッと変え、堅物だけど心優しい養老院の施設長役で再登場するのがアジアの風部門『老人ホームを飛びだして』である。余生を有意義に過ごしたい養老院の老人たちが、テレビの仮装大賞出演を目指しておんぼろバスで旅するこの作品。『こころの湯』『胡同(フートン)のひまわり』などハートウォーミングな作風で知られるチャン・ヤン(張楊監督)らしい人情劇で、同部門審査員のスペシャルメンションを受けた。

『光にふれる』

 中華圏の映画は、とかく女優がキレイである。今回、最も“眼福”だったのはアジアの風部門『光にふれる』のサンドリーナ・ピンナ(張榕容)だ。主人公の盲目のピアニストと心を通わす女性を好演。台仏ハーフの血による美しい容姿ながら、笑顔をあまり見せないむっつり顔もキュート。ああ、来日してほしいかった……実際にご尊顔を拝したかった。タイトルどおり光に溢れた映像に優しいピアノの音色が重なっていく演出が美しく、観るものの心のツボを刺激するショットがたくさん。爽やかな感動作なので、ぜひ劇場公開してほしい。

 今回、日中関係悪化の思わぬ余波を受けた中華圏映画だが、日中合作の『スイートハート・チョコレート』(アジアの風)、日本人監督による全編北京語の『黒い四角』(コンペティション)など、新たな協力の形もみられた。この秋、中国でヒットした映画『銅雀台』(原題)には玉木宏が出演しているし、日本人俳優の中華圏映画・ドラマへの出演も増えている。なかなかあちらの文学やエンターテインメントが紹介されない日本ではあるが、こうした協力作をきっかけに興味を抱く人が増えることを願う。そうすれば多少、私の仕事も増えるんだけどなぁ……。

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