『アルゴ』監督ベン・アフレックが早くも到達した一つの頂点

 これはすごい完成度。3本目の長編監督作でこんな面白い映画を撮っちゃったらこれから先が大変だよ、ベン・アフレック!と、つい余計な心配までしてしまう。『アルゴ』はイランでのアメリカ大使館人質事件という政治的なテーマを扱いながらも、笑いあり感動あり、最後までハラハラドキドキさせてくれる娯楽映画の醍醐味が詰まった一本だ。
 1979年、イラン革命で追放されたパーレビ前国王が、がん治療のためアメリカに入国。イランの過激派はパーレビの引渡しを求め、アメリカ大使館を占拠して職員ら52人を人質にとった。その混乱のさなか、裏口から6人が脱出をはかり、カナダ大使の私邸に逃げ込んでいた。彼らの脱出がイラン側にばれて捕まってしまえば、公開処刑は免れない。一日も早く6人を救出するために呼ばれたのは、CIAの人質奪還のプロであるトニー・メンデス(アフレック)だった。トニーはウソの映画を企画し、6人をロケハンのためイランを訪れた映画クルーに仕立てて出国させるとという奇抜な作戦を思いつく。『猿の惑星』で有名な特殊メイクの第一人者ジョン・チェンバース(ジョン・グッドマン)らの協力を得て、直ちにSF映画『アルゴ』の製作をぶち上げるが……。
 もともと、ポリティカルな題材を好むジョージ・クルーニーがメガホンをとるつもりで準備していたという本作。諸事情により監督はアフレックにバトンタッチし、クルーニーはプロデューサーを務める形になったが、それが吉と出たようだ。大学で中東について学んでいたというアフレックのこの作品に対する熱意は想像に難くない。そして何より、観客を楽しませる作りに注力した重心の置き方がいい。スリリングなサスペンスと70年代ハリウッドの内情がうかがえるコミカルな要素をミックスさせたバランスが素晴らしい上、当時のプロフェッショナルな“仕事人”たちの生き様を一貫して根底に敷くことで、様々な要素を盛り込みながらも決して空中分解しない。事件解決に奔走した当事者たちへの敬意、70年代ハリウッドへの愛に満ちている。
 70年代後半から80年代という時代背景そのものも本作を面白くしたポイントだ。スマートフォンや各種通信機器はもちろん、携帯電話すら使われていなかった時代だからこそ施せた脱出劇の味付け。ケータイひとつで「はい、逮捕」とはいきません。追うもの、追われるもの鼓動と息遣いまで聞こえるようなスリル。こんな映画が観たかった。

▼作品情報▼
『アルゴ』
原題:Argo
監督:ベン・アフレック
製作:ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロブ、ベン・アフレック
出演:ベン・アフレック、アラン・アーキン、ブライアン・クライストン、ジョン・グッドマン
配給:ワーナー・ブラザース映画
2012年/アメリカ/120分
公式サイト: http://wwws.warnerbros.co.jp/argo/

10月26日(金)、丸の内ピカデリーほか全国にて公開
 
(C) 2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

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