情熱のピアニズム
ミシェル・ペトルチアーニが亡くなって10年以上経った今、この映画が上映される事とここで紹介出来る事を嬉しく思う。改めて、このジャズピアニストの素晴らしさを感じてもらえたらと願う。
この映画は、骨形成不全症という障害を持って産まれ、大人になっても身長が1mしかなかったピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニが36歳で亡くなるまでの音楽キャリアと女性遍歴を、生前に交流のあった人達へのインタビューとペトルチアーニ本人の映像で紹介するドキュメント映画である。
それにしても、何と痛快な人生を歩んだ人であろうか。この映画からは、障害を持った事に対する恨みや暗さなど微塵も感じさせないペトルチアーニの得難いキャラクターもあって、明るさ、華やかさ、努力する事の尊さ、生きる事の無限の可能性といった前向きで意欲的なものだけを感じさせる。彼のキャラクターと相まって響く彼のピアノの音色は、まるで人生への賛歌を奏でているかの様だ。
ジャズが低迷していた時代に彗星のごとく現れたスターとして将来を嘱望されていた、若手で一番のピアニストだった彼のキャリアは完璧なものである。ジャズファンの自分の経験から考えても、彼の同世代で彼と肩を並べるほどのジャズ界のスターはウィントン・マルサリスくらいしかいなかった様に思う。奏でられるピアノの音色は、その体躯からは考えられないほどの強いタッチでありながら、影響を受けたビル・エヴァンスの様な抒情的な響きを失わない。彼のピアノを聴いた後で病気の事を知ったという人がいたら、まず信じられないという思いを持つだろう。
そしてもっと信じられないのが、数々の女性と浮き名を流し、何度も同棲や結婚を繰り返した相当のプレイボーイだったという事である。見様によってはこの映画、はっきり言ってただの嫌味な映画である(笑)。だって、ジャズピアニストとして若くから華々しい成功を収めて亡くなる直前までそのキャリアが低迷する事は一度もなく、女性からもモテて別れた後も恨まれてない。こんな事、同じ男の自分から見てあり得ないフィクションとしか思えない。でも、映画を観ているとなぜ彼がそうだったのか、とても良く分かるのだ。本当に見ていて清々しい気持ちにさせられる。
ペトルチアーニの陽性のキャラクターと演奏の素晴らしさは実際に映画を観て確認してもらうのが一番だが、肉体のハンディキャップを言い訳にせず貪欲なまでにピアノを演奏する事と人生を謳歌する事をやめなかったその飽くなき姿勢こそが、この映画を見応えのあるものにしているし、注目して欲しいところでもある。生きていればまだ50歳だった、惜しかったと思う反面、短かろうとも人生を生き切った人であったと思う。
▼作品情報▼
『情熱のピアニズム』
監督:マイケル・ラドフォード
出演:ミシェル・ペトルチアーニ
10月13日(土)、シアターイメージフォーラムほか全国順次公開
公式サイト:http://www.pianism-movie.com/
(C) Les Films d’ici-Arte France Cinema-LOOKS Filmproduktion GmbH-partner Media Investment-Eden Joy Music-2011