「大奥」男女逆転の発想にアッパレ!

「将軍は女、仕えるは美しき男たち三千人」―原作は、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞(2006)、手塚治虫文化賞マンガ大賞(2009)を受賞したよしながふみの同名漫画。奇病の流行で男の数が極端に少なくなった江戸時代を舞台に、大奥に集う眉目秀麗の男たちと時の将軍・吉宗を巡る、異色のドラマだ。

大奥と言う設定はよほど人の心を刺激するのだろう。映画やドラマ、舞台など、数々の「大奥モノ」が作られてきた。一人の男を巡る女同士の戦い、嫉妬、情念、悲哀…。「人の不幸は蜜の味」という言葉もあるが、ドロドロしたものを好むのが人間の本性なのかもしれない。しかしながら、これまで誰が「男女逆転の大奥」を想像しただろうか。シンプルなようでいて、これは大胆かつ奇抜なアイディアである。

実は私はそういったアイディアに「酔う」タイプである。何かを一つ変えただけで、これまでの世界がまるで違ってしまう…と言った展開が大好きなのだ。例えば、失明に至る病が蔓延した世界を描く「ブラインドネス」。人間が光を失っただけで、社会は乱れ混沌と化していく。例えば「インセプション」。ひとつひとつは単純な夢でも、それを繋げていくと、とんでもなく立体的で輻輳したドラマになる。自分では絶対に考え付かないようなアイディアを見せつけられ、通常ではわかりえない新たな気付きを与えてくれる方が、どんなに進歩的な3D映画を見せられるより刺激的なのである。

そしてこの「大奥」だ。ちょっと考えて欲しい。男の数が女の数よりも極端に少ないと言うことはどういうことなのか?

女が社会の中心として活躍し、男は子どもを作るための道具として存在する。男は親に「売り」をさせられ、花街では男が女に買われる。一方女も、貧しい家では婿取りも出来ず、どうにかして子どもを生むことが出来なければお家断絶だ。ところが、大奥では大勢の男がただひとりの将軍(=女)のために働く。女がいないから、男同士の関係も珍しくない。大奥の内と外、もはやどっちが歪なのかわからなくなる。


しかし、ひとつ言えるのは、人間の属性が何も役に立たなくなるような「有事」のとき、結局我々に最後に残るのは、生殖上の性の役割のみということだ。そこに男女逆転はない。本作はそれを残酷なまでに表しているのだ。

と、なんだかんだ言ったが、この映画を最大限に楽しむのはただひとつ。こんなことありえない!という思いを捨て、その世界をそのまま受け入れること。本作は原作の第1巻を映画化したものだが、そのイメージを忠実に再現していると言っていい。キャスティングも面白い。原作者が吉宗役を熱望したとされる柴咲コウは男よりカッコよく、ドラマの「暴れん坊将軍」さながらに登場するシーンは狙い通り。大奥のエリートを演じた玉木宏は色気たっぷりだし、イケメン俳優らが扮する大奥の男子が憧れの人(=男)にキャッキャしているのはまるで女子高ワールドで笑いを誘う。

草食系男子が増え続け、もはや男らしさや女らしさは求められず、性差のない状況が「平等で良い社会」とされつつある現代ニッポンに、この物語が登場したのも何だか頷ける。どんなに差をなくそうとしても、変えることのできない男の役割・女の役割があるということを、改めて感じたところである。

オススメ度★★★★☆

Text by 外山 香織

【監督】金子文紀
【原作】よしながふみ「大奥」(白泉社刊)
【脚本】高橋ナツコ
【キャスト】二宮和也/柴咲コウ/掘北真希/大倉忠義

企画・制作:アスミック・エース エンタテインメント TBSテレビ
配給:松竹 アスミック・エース
製作:男女逆転「大奥」製作委員会
2010年10月1日より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー

『大奥』公式サイト

(c)2010 男女逆転『大奥』製作委員会

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