『小さな村の小さなダンサー』汗と涙でつくられた屈強な肉体に刮目

   舞い、跳躍する主演ツァオ・チーの素晴らしい肉体美に目が釘付けになる。何も私が筋骨チェックマニアだからというわけではない。北京で地元バレエ団の公演を見たことがあるが、揃いも揃って恵まれた肉体美と完璧なプロポーションを持つダンサーが、一糸乱れずに踊る姿に衝撃を受けた。その中国バレエの強さの源を今作は1人のダンサーの人生を通して教えてくれる。

 

 小さな村から役人に見出されて北京でバレエの英才教育を受け、政府の派遣で米国に渡ってそのまま亡命したダンサー、リー・ツンシン。数々の苦難を乗り越え、現在はオーストラリアに暮らす彼の、自伝小説の映画化がこの『小さな村の小さなダンサー』だ。文化大革命の最中、自分の意思とは関係なく、国に強制されてダンサーとしての適性検査を受けることとなり、そのまま北京の全寮制の学校でひたすら踊り漬けの日々を送る。すべては国のため、故郷から送り出してくれた両親のため。まるで体操選手やアスリートのような猛烈な練習に耐え、主人公が一流のダンサーになっていく過程を、映画は華麗かつ迫力あるバレエ・シーンを織り交ぜながら丁寧に描く。

 主人公が英才教育を受けた「北京舞踏学院」に隣接する大学に留学していたことがある。キャンパス内には舞踏学院の学生もよく行き交っていたのだが、もう同じ人とは思えない、“骨から違う”美しさに、彼・彼女らを羨望の眼差しで見つめたものだ。この映画を見て納得した。身体能力の高さに加え、顔の良し悪し、脚の長さが胴より何センチ長いか等々、広い中国全土からまさに天からのギフトを与えられた選ばれし者たちの集団だったのである。主演のツァオ・チーもそんなスペシャルな人材の一人。映画デビュー作とは思えない豊かな表現力と、随所に散りばめられたバレエ・シーンで見せに魅せる。中国バレエ界の層の厚さと、強さを実感せずにはいられない2時間だ。

 

 リーが亡命を希望した際にヒューストンの中国総領事館に監禁されるなど、緊迫したやりとりも所々に挟まれ、ドラマをぎゅっと引き締める。今作はオーストラリア映画である。そのためなのか、中国側にも米国側にの肩入れしない、非常にニュートラルな視点による作品に仕上がっている。その上、中国の農村の風景や寄宿舎の様子など、描写がとても緻密で正確。非常に好感が持てることも付け加えておきたい。

 

 忘れてはならない、ドラマの根底にあるのは親と子の愛情だ。中国でよく使われる四字熟語に次のものがある。「望子成龍」―子の出世を願う。どれだけ手元においておきたい子どもでも、今も昔も貧しい農村では、我が子が北京に進学するなんて大変な名誉なのである。さらに海外で成功するとは。それに支払う代償がどんなに大きくても、歯を食いしばり耐える親と、それに応えようと努力する息子の姿に胸が熱くなること必至。女性はぜひ、マスカラはウォータープルーフのものにして劇場へ行ってほしい。

 

オススメ度  ★★★★★

 

Text by 新田 理恵

 

【監督】ブルース・べレスフォード

【脚本】ジャン・サーディ

【原作】リー・ツンシン

【キャスト】ツァオ・チー/ブルース・グリーンウッド/カイル・マクラクラン/アマンダ・シュル/ジョアン・チェン/ワン・シュアンパオ

 

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