『エル・トポ 製作40周年デジタルリマスター版』コントロールされた狂気、それは美しき変態道!

(C)ABKCO Films.

「なんじゃこりゃ~っ」。エンドロールが流れるなか、半笑いで驚愕していた。奇妙奇天烈で、リアルに残忍。だが、これが何とも美しいのである。ジョン・レノンが惚れこみ、寺山修司が絶賛したというカルト映画の金字塔『エル・トポ』。製作から40年たった今年、デジタルリマスター版として蘇ったこの伝説的な作品は、美と狂気に彩られたとんでもない変態映画だった!
銃の名手エル・トポは、息子(なぜか全裸)を連れて旅をしている。修道院にたどり着き、そこに陣取る山賊のドンである大佐を倒して去勢すると、息子を置き去りにする代わりに、大佐の愛人を連れて“最強のガンマン”となる旅に出発する・・・。
変態だ!と叫んではみたものの、“大好きなほう”である、とも断っておこう。とはいえ、ご安心いただきたい。私は別段、エキセントリックなものに共鳴する感性の持ち主ではない。『ロード・オブ・ザ・リング』が大好きだし、生涯で最も泣いた作品は『タイタニック』というわりと王道の娯楽映画好きだ。それでも『エル・トポ』には興奮し、顔が半笑いになるのである。
絶え間なく流れる血、血、また血。実物を用いたといわれるウサギの死骸の山や、実際に身体障害者の人々が演じるコミュニティーなど、全編にわたり印象的すぎる映像満載である。“キワモノ”紙一重でこの作品が“アート”と呼ばれるのは、全編に散りばめられた宗教的なエッセンスがキリスト映画的な神聖さすら漂わすからか。はたまた、エル・トポの黒装束、血の赤、延々と続く砂漠が絵画的に美しいからか。映画はファンタジーと悪夢の境界線上を、完璧にコントロールされた綱渡りのように進んでいく。
あなたがアートだと思えばアート、キワモノだと思えばキワモノ。ともかく観てから判断して損はない。たとえ感性にそぐわずとも、「すんごいモノ観た」と半笑いでちょっと得がたい感覚に襲われることを約束する。
一点だけ忠告しておこう。デートには不向き。



ヒューマントラストシネマ渋谷にて公開中

(C)ABKCO Films.

 

オススメ度:★★★★☆
Text by:新田理恵

【原題】EL TOPO
【監督・脚本・音楽・美術】アレハンドロ・ボドロフスキー
【出演】アレハンドロ・ボドロフスキー、ブロンティス・ボドロフスキーほか

1970年/アメリカ・メキシコ合作/2時間3分

『エル・トポ 』公式サイト http://www.el-topo.jp/

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