ももへの手紙
なんと上質な映画なのだろう。愛媛生まれで瀬戸内の海を見て育った自分にとっては思い入れも自然と強くなり、愛すべき一本となった。
父親と喧嘩して仲直りしないまま父親が死んでしまい、後悔したまま母と二人で東京から瀬戸内海の汐島へ引っ越す事になった、もも。喧嘩した父親が残した「ももへ」とだけ書いた手紙を手に父親の事を考え、新しい生活にも慣れないももだったが、ふと何かの気配を感じる様になり身の回りに奇妙な出来事が起こり出す。その気配の正体はイワ・カワ・マメという3人の妖怪だった。この3人の妖怪とももの関係、母親とももとのうまくいかない関係を軸にストーリーは展開する。
最初に上質な映画と言ったが、とにかくこの映画の仕事の丁寧さは特筆に値する。絵の細かいところまで行き届いた色彩の素晴らしさ。瀬戸内の海や街並みの美しさ。柔らかな方言の響き。ストーリーの邪魔をせず心地よい音楽。目にも心にも優しいのだ。マット調にしっとり仕上がった700円のパンフレットの出来上がりの良さまでも映画の良さとともに強調したくなってしまう程だ。
ストーリーも愛情に満ちた内容で、本当にこんな事があればいいなと思わせるラストシーンには涙が止まらない事だろう。この映画で描かれる、異形の物や死んでしまった大切な人との交流。これは多くの人が持つ憧れなのだと思う。それが、宗教観や死生観みたいな重いテーマを提示する事なく素直に心に入っていく。特に異形の物との交流は、本来ジブリ映画の専売特許である。そういう意味で誤解を恐れず言えば、現在のジブリ映画よりもこの映画の方が昔からのジブリ映画の正統な後継の位置にあるのではないだろうか。
誰もが幸せな気持ちになれる、大人にも子供にもおススメ出来る映画。ゴールデンウィークに映画を観る人は、ぜひこの映画をどうぞ。
おススメ度:★★★★★
キャスト:美山加恋、優香、西田敏行、山寺宏一、チョー、坂口芳貞、谷育子、小川剛生、荒川大三郎、藤井晧太、橋本佳月
監督:沖浦啓之
音楽:窪田ミナ
(C) 2012『ももへの手紙』製作委員会