【未公開映画ファイルVol.3】 アナザープラネット
ある日、空にもうひとつの地球が現れた。そこは今いる地球とシンクロした世界、パラレル・ワールド。ゆえに望遠鏡で覗いてみると、アメリカの東海岸がそのまま見えたりするのである。ところが、この作品のメインテーマは、取り返しのつかない過去の罪に対する後悔や償いの気持ちと、そこからの逃避願望といった、人間誰もが持つ心の葛藤の部分にある。そんな重いテーマをSF的世界の中で描いたというところが、この作品のユニークな点だ。
取り返しのつかない罪とは、交通事故。その時、17歳のローダは、MIT(マサチューセッツ工科大学)に合格し、「世の中に自分の思うようにならないものはない」そんな気分に浸っていた。そんな浮かれ気分のパーティーの帰り道、彼女は対抗車に正面衝突、懲役4年となり、輝かしい未来を棒に振る。一方、衝突した相手方の家族は、妊婦と幼い子供が死亡、ひとり夫だけが取り残される。前途有望な音楽家だった彼は、大学の教職を辞め、酒浸りの日々を送っている。
どうしたら希望を見出せるのか。元々、パラレル・ワールドを描く作品の根底には、もしもあの時こうだったらという要素があり、この作品の主人公も、もうひとつの地球に別の人生を歩んでいる自分がいるという可能性に希望を持つ。これは現実逃避だ。一方彼女は、無意識に現実にも引きつけられていく。人と話さなくて済むからと選んだ清掃の仕事場は、嫌でも過去の自分を思い出させるハイスクールである。さらには、ネット上で過去の記事を検索、事故の相手方の家を探し当てわざわざ訪問する。一見矛盾した行動にも見えるが、いずれも、苦しさから逃れたいというとこから出てきたものである。人間の心とは誠に複雑なものだ。
被害者の家を訪問したローダは、結局のところ真実を打ち明け、謝罪する勇気が持てない。清掃会社の社員と偽り定期的に家に通ううちに、彼女の心は、彼の心の傷を少しでも癒されればという気持ちに変わっていく。彼のほうも彼女に次第に打ち解け、生きる気力を取り戻し、いつしかふたりに恋愛感情が芽生えてくる。この危険な関係が、この物語の第二章。人は現実から目をそらしたまま生きていけるのか…。無論答えはノーである。「何も見ない、聞かない」と言って自ら目と耳をつぶした、ローダの同僚である、老人の涙がすべてを物語る。
「ガリレオが地動説を唱えたからって、今だって地球が中心に位置することに違いがないではないか。現に向こうのことを第2の地球と言っているだろう」という台詞が印象的だ。地球という言葉は、自分という言葉にそのまま置き換えられる。所詮、人は自分の存在が意識の中心である。これは、目を背けず現実を受け入れ、自分と向き合えるかということを意味する。そうしたわけで色々な解釈が成り立つ衝撃のラスト・シーンは、観客の心を写す鏡にもなっている。ハッピー・エンドなのか、はたまた悲劇なのかは、観る人の心に委ねられているのだ。
オススメ度:★★★★☆
Text by 藤澤 貞彦
【作品情報】
監督:マイク・ケイヒル
脚本: マイク・ケイヒル、ブリット・マーリング
撮影: マイク・ケイヒル
出演:ブリット・マーリング、ウィリアム・メイポーザー
ロード・テイラー
原題:ANOTHER EARTH
※2011年サンダンス映画祭審査員特別賞、アルフレッド・P・スローン賞受賞
2011年/アメリカ/93分
リリース: 20世紀フォックスホームエンターテインメント
発売日:2012年3月16日