アニマル・キングダム

犯罪と家族と青春と

(c) 2009 Screen Australia, Screen NSW, Film Victoria, The Premium Movie Partnership, Animal Kingdom Holdings Pty Limited and Porchlight Films Pty Limited.

ここ数年のクライム・ムービーは豊作続きで、去年だけでも「ザ・タウン」「ロンドン・ブルバード」「ウィンターズ・ボーン」「ブリッツ」「スリーデイズ」など、力作揃いだったと感じる。不景気やテロや凶悪犯罪のニュースを見ない日がない昨今、映画を観る人達がクライム・ムービーをよりリアルに観てしまうイコライザーを体内に内臓したのかもしれないと思ってもしまうのだが、人の心の闇を映し出すクライム・ムービーはそのジャンル自体が優れてリアルになる要素を内包しているのだと思う。そして、この「アニマル・キングダム」も、期待を裏切らない力作となっている。

舞台はオーストラリアのメルボルン。17歳の高校生ジョシュア(ジェームズ・フレッシュビル)は母親を亡くした事で、これまで疎遠だった祖母(ジャッキー・ウィーヴァー)の元に引き取られる事になった。しかし祖母の一家はジョシュアの叔父である祖母の三人息子のポープ(ベン・メンデルソーン)、クレイグ(サリバン・ステイプルトン)、ダレン(ルーク・フォード)と、一家の親友バリー(ジョエル・エドガートン)すべてが凶悪犯罪に手を染め、祖母もそれを黙認する家庭だった。行くところがないジョシュアにはそこで生活するしか術はなかったのだが、だんだんと生活にも馴染み、ガールフレンドのニッキーを家に連れてきたりもする様になる。当初は犯罪に関わる事のなかったジョシュアだったが、次第に巻き込まれる形で関わる様になり、警察との激しい抗争を目の当たりにし、事情聴取を受け、さらには彼女や彼女の家までも巻き込み、事態はどんどん悪い方向に進む・・・。

ちょっとおかしな話しと思われるかもしれないが、どこからどう見てもクライム・ムービーのこの映画、実は家族の絆を描くファミリー・ムービーでもあり、10代の青年の成長を描く青春映画でもあるのだ。

犯罪という共通言語を持ったこの家族は、他のどんな家族よりも絆は強いのではないかと感じさせてしまう程だ。事の善悪を抜きにして、共通の目的を持つ集まりというのは固い絆で結ばれるものなのだ。その家族に、他の場所で育った共通の目的を持たない10代の異質な家族が入った事により、結束の強かった家族に次第にほころびが生じてしまう。これは、典型的なファミリー・ムービーではないか。

若者はまだ10代で、自分の意思は弱く意見を表明する事も出来ず、凶悪犯罪に手を染める家族を横で見てとまどいながらも何も出来ず、生活するために新たな家族に依存するしかない状況だ。その若者が、犯罪に関わる事によって苦しみ、とまどい、愛するものとの関係に悩み、距離感を計れないでいる。これは、恋に悩んで友人に裏切られ家族の反対にあいながらも人間として成長していくというのと同じ、典型的な青春映画ではないか。

(c) 2009 Screen Australia, Screen NSW, Film Victoria, The Premium Movie Partnership, Animal Kingdom Holdings Pty Limited and Porchlight Films Pty Limited.

犯罪・家族・青春の3ジャンルをフュージョンさせたおいしい炊き込みご飯の様なごちゃまぜ感。それがこの映画の魅力につながっていると感じた。印象的なシーンのひとつである、真っ暗な部屋で当時オーストラリアで流行ったラヴァーズ向けオシャレ音楽のエア・サプライの曲を無言で聴きながら、弟への復讐のために警官殺しを決意する場面。このアンバランスなごちゃまぜ感が妙にリアルでぞっとしてしまうのは自分だけではないだろう。

映画の終わり方もまた強烈な印象を残す。何も分からずなす術もなかった若者が、最後に愛すべきものと憎むべきものの違いに気付き、明確な意図を持って行動する。犯罪と家族と青春との折り合いをつけ、確信に満ちたラストシーン。ここからこの若者は自分の意志で新しい人生を進んでいくんだ、もう彼は立派な大人になったんだと感じた。クライム・ムービーなのに上映後に暗い気持ちにならなかったのは、ある種の爽やかさすら感じたからかもしれない。ありそうでなかなかないタイプのクライム・ムービーである。

おススメ度:★★★★☆

Text by 石川達郎

監督:デヴィッド・ミショッド
出演:ベン・メンデルソーン、ジョエル・エドガートン、ガイ・ピアース、ルーク・フォード、ジャッキー・ウィーヴァー、サリバン・ステイプルトン、ジェームズ・フレッシュビル

1月21日(土)よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほか全国公開
公式サイト:www.ak-movie.com

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