【TIFF】ハッピー・バースデイ(ウィメンズ・エンパワーメント)
【作品解説】
主人公は、カイロの裕福な家庭でメイドとして働く8歳の少女トーハ。トーハは、雇い主の娘で親友のネリーの誕生日パーティーを開くために奔走する。それは親友の誕生日を一緒に祝いたいためだったが、そんなトーハの前に現実が立ちはだかる。誕生日という親しみやすいモチーフを扱いつつ、社会格差の問題を浮かび上がらせる作品。トライベッカ映画祭で最優秀作品賞、脚本賞、ノラ・エフロン賞の3賞を受賞した。
【クロスレビュー】
外山香織/誕生パーティーの豪華さに目を見張る度度:★★★★☆
裕福な家で女の子2人が仲良く遊んでいるが、1人はその家の娘、もう1人はメイドだ。雇用者家族からすれば、メイドの少女トーハが学校にも行かずソファーで寝起きし家事をするのは当然のこと。トーハ自身も疑問を感じていない。しかしそれは児童労働という摘発されるべき行為である。トーハはネリーの誕生パーティーを一緒に祝おうと準備に奔走するが、ネリーの母親と祖母は、外部の目に触れるパーティーにはトーハを出さないという判断を下す。突きつけられるのはエジプトにおける貧困と格差、差別意識、そしてこれが世代を超えて続くという現実だ。児童労働について祖母は問題を認識しているが、母親は指摘されるまでさほど気にしていない。むしろ貧困家庭を自分が救っているのだという感覚でいる。さらにその子ネリーはトーハが自分の世話を焼くことは自然だと思ってしまっている。意識的な差別より無意識のバイアスのなんと恐ろしいことか。自分の置かれている立場を悟ったトーハの表情が、観る者の心に沁みる。
藤澤貞彦/アンハッピー・バスデイ度:★★★★☆
裕福な家庭にお手伝いさんとして雇われ住み込みで働いている小さな女の子トーハ。子供の世界では、差別意識はあまりなく、彼女は同じ年ごろの雇い主の子ネリーと誕生日パーティーの計画を立てる。ただ雇い主の子はトーハが学校に行かないのを特に気にしてもいないし、彼女が大人の都合で家に帰されパーティーに出席していないことを心配もしていないようである。実はここに差別意識の芽が隠されているような気がする。この家庭の雇い主の奥様は決して悪い人ではない。周りの目に配慮しなければと気が付く前までは、トーハをパーティーにも出席させるつもりでいたのである。彼女には“慈善の心”があるのだ。トーハが頭のいい子であるだけに、学校にも行けず、大人のあからさまな差別、無意識の差別の中で過ごさなければならないのが痛々しい。盛大なパーティーを開いてもらえる子と、自分の誕生日さえわからない子、この落差。エジプトでは学校に行けない子が全体の1割もいて社会問題になっているという。雇い主の家庭に憧れるトーハは、貧しさの階層的固定化により、このままでは一生這い上がれないであろう。ネリーの蝋燭への願い事は必ず叶い、トーハの願い事は叶ったためしがない。その残酷、ラストはそのことを象徴している。
第38回東京国際映画祭開催概要
期間 2025年10月27日(月)~11月5日(水)[10日間]
開催会場 シネスイッチ銀座(中央区)、角川シネマ有楽町、TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ 日比谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、丸の内ピカデリー、ヒューリックホール東京、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場、LEXUS MEETS…、三菱ビル1F M+サクセス、東京宝塚劇場(千代田区)ほか、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
公式サイト:https://2025.tiff-jp.net/ja/
