『シャドウプレイ【完全版】』ロウ・イエ監督インタビュー

ある汚職事件を通して描く社会の縮図

主人公の若い刑事を演じるジン・ボーランは、ロウ・イエ作品初参戦。中国映画・ドラマファンの間では「皇后的男人~紀元を越えた恋~」や『モンスター・ハント』などで知られる人気俳優だ。さらに「花と将軍」などのマー・スーチュンをヒロインに迎え、実力派女優のソン・ジア、ロウ・イエ作品常連のチン・ハオらがヒリヒリした演技で火花を散らす。ジンの起用についてロウ監督は、「テレビドラマは見ないし、過去作は何も見たことがなかった」と言う。「若手に刑事を演じてもらいたくて、有名な俳優、そうでない俳優、大勢の若手俳優に会った結果、彼に決めました。自分が刑事に見えるかと不安がっていたので、『本物の刑事は、刑事に見えない』と言ったことを覚えています。しばらく本物の刑事について職業体験をしてもらいました。役柄の状況をつかむのが早い俳優だと思います」

中国では19年4月に公開されたが、汚職事件のセンシティブさや、出演者のスキャンダルなどにより、撮影から上映許可を得るまでに約2年かかっている。モチーフとなった政治家とデベロッパーの癒着など、現在の中国では日常茶飯事だが、それでも映画の中で描かれることに当局はまだ敏感なのだろうか。
「官民の癒着には敏感です。私にとっては、中国社会を語る上で重要な問題だと思うのですが。映画は、そんな社会で生きる人と、彼らの暮らしを描いただけ。警戒する必要はないと思いますけどね。たかが1本の映画です」
映画が描く「生活」と本来であれば切り離せない「政治」を語ることが不自由な中国。「映画監督としてすべきことは、自分の態度を明らかにすること。ある事柄に対する自分の態度を物語を通して表明し、観客に参考として投げかけることだと思います」

Profile
ロウ・イエ 婁燁

1965年、上海生まれ。83年に上海華山美術学校アニメーション学科卒業後、上海アニメーションフィルムスタジオにてアニメーターとして働く。85年、北京電影学院映画学科監督科入学。『ふたりの人魚』(2000年)、『パープル・バタフライ』(2003年)などで国内外の注目を集め、天安門事件を扱った『天安門、恋人たち』(2006年)がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたことで5年間の映画製作・上映禁止処分となる。禁止処分中に同性愛を描いた『スプリング・フィーバー』(2009)がカンヌで脚本賞を受賞、禁止処分が解けてから撮った『二重生活』(2012年)もカンヌの「ある視点部門」に出品されたほかアジアン・フィルム・アワードで最優秀作品賞ほか3部門を受賞した。『ブラインド・マッサージ』(2014年)も、ベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞するなど数々の映画賞に輝く。『シャドウプレイ』は、18年の台湾金馬奨で監督賞、撮影賞、音響賞、アクション設計賞の4部門にノミネート。19年2月のベルリン国際映画祭パノラマ部門に出品された。新作は太平洋戦争開戦前夜の上海租界が舞台のスパイ映画『サタデー・フィクション』(コン・リー主演、オダギリ・ジョー共演)で、今年11月に日本公開を予定している。

 

『シャドウプレイ【完全版】』
中国南部の広州市。老朽化した居住区の再開発に反対する住民たちの暴動現場に駆け付けた市当局責任者が、混乱の最中に謎の死を遂げる。居合わせた刑事ヤンが事の真相を探っていくと、捜査線上に謎めいた若い女性が現れて……。汚職事件の渦中の人物とその周囲の人々の関係をドラマチックに描きながら、中国社会の変化を濃厚に反映させた意欲作。
1月 20 日(金)より新宿 K’s cinema、池袋シネマ・ロサ、UPLINK 吉祥寺ほか全国順次公開
©DREAM FACTORY, Travis Wei

 

同日公開『夢の裏側』
ロウ・イエ監督の妻であり、共同脚本家のマー・インリーが手がけたドキュメンタリー。準備期間から中国公開にこぎつけるまで、さまざまな困難に見舞われた『シャドウプレイ』製作の裏側をカメラが丁寧に追う。珍しく荒ぶるロウ監督、現場の弁当問題、理不尽な検閲への苛立ちなど、滅多にみられない映像の連続。
監督:マー・インリー
1 月 20 日(金)より新宿 K’s cinema、池袋シネマ・ロサ、UPLINK 吉祥寺ほか全国順次公開
©DREAM FACTORY Limited(Hong Kong).

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