【TIFF】ザ・ビースト(コンペティション)

映画と。ライターによるレビューです。

【作品紹介】

スペイン、ガリシア地方の人里離れた山間の村を舞台に、移住して農耕生活を始めたフランス人の中年夫婦が直面する、地元の有力者の一家との軋轢をパワフルな演出で描いた重厚な心理スリラー。

【レビュー】

藤澤貞彦/二つの世界度:★★★☆☆

スペインの山間の村に定年後の安住の地を求めてやってきた夫婦に、隣の家族が嫌がらせをする。最初は夫婦がフランスからの移住者ということが、差別の原因になっているのかと思ったが、そうではない。2つの家族はあらゆる点で違っている。フランス人元教師の主人公は、農業をやるにあたって、勉強をして色々準備をしてきたようで、市場でも野菜が美味しいと評判を呼ぶ。夫婦仲良く、性格も穏やかで上品な感じがする。一方隣の兄弟は生まれた時からそこに住み、まともに教育も受けず、土まみれになって生き、貧しさゆえに歳をとっても結婚相手さえいない。ザ・ビーストとはこの粗野な兄弟を指している。しかし、この作品は彼らを単なる悪役としては扱っていない。2つの家族の対立には原因があり、彼らにも理があることがわかってくるからである。例えば、過疎が進む村の傷んだ住宅を修理すれば、人が戻ってくるに違いにないと信じる都会人の浅はかさ。一方、足元を見られているとも知らず、風力発電を招致すれば、豊かになって楽な暮らしができると妄信している兄弟の無知。新参の住人がいくらだまされていると警告しようとも、自分たちのほうがこの土地のことをわかっているという意識が邪魔をして聞く耳を持たない。こういう地域ではどこにおいても起こりうる対立の構図が確かにそこにある。この部分が面白ければ面白いほど、実はこの作品が、むしろ夫婦の絆のほうをメインテーマとしていた、というところに若干とまどいを覚えてしまった。


© Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E, Le pacte S.A.S.

※東京グランプリ/東京都知事賞
※最優秀監督賞 ロドリゴ・ソロゴイェン
※最優秀男優賞 ドゥニ・メノーシェ  


第35回東京国際映画祭
会期:令和4年10月24日(月)~11月2日(水)
会場:日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区(TOHOシネマズシャンテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他)
公式サイト:https://2022.tiff-jp.net/ja/

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