【TIFF】堕ちた希望(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

©Tramp Limited Srl – O’Groove Srl 2018

人身売買組織の手先として働くヒロインは、逃げた娼婦を必死に探す。しかし、自らの妊娠を機に人生を変える賭けに出る。ナポリ郊外、イタリア屈指の無法地帯と呼ばれる荒れた海辺を舞台とした、激しく美しいサバイバルドラマ。

クロスレビュー

鈴木こより/ナポリに救世主を!度:★★★☆☆

不条理や貧困を描いていても、ナポリが舞台の映画にはどこかカラッとした明るさがあったような気がするが、ここ最近の作品にはほとんどみられない。本作もそうで、かつてリゾート地だった海辺の町は荒廃し、ゴミで溢れかえっている。世紀末的というか、救いようのないの世界に娼婦のヒロインが身ごもり、そこから逃げ出そうとする。登場するのは娼婦、老女、移民、障害を持つ少女、それに犬や馬、と隷従を余儀なくされている者ばかり。クリスマスを迎えるこの地に救世主は現れるのだろうか。気が滅入りそうになるけど、聖書の一節を見ているような感覚もあり、見終わったあと登場人物やシーンについて反芻してしまった。

外山香織/過酷さに打ちのめされる度:★★★★★

妊娠した娼婦達が自身の子を手放して金を手に入れ、また娼婦として働くことを繰り返す。そんな人身売買を自らの仕事としているのが本作の主人公マリアだ。彼女自身、幼い頃に性的暴行を受け将来子どもを産むのは無理とされていたが、思わぬ妊娠。周囲は母体を心配し中絶を勧めるが本人は産む決意を固める。奇跡とも言えるような妊娠・出産はキリスト教における聖母マリアとイエスの誕生を想起させるし、エンドロール後に登場する「見知らぬ人間の手」は実は「神の手」ではとも思えてくる。しかし、この後彼らはどうやって生活していくのかと考えずにはいられない。どんな環境にあっても希望はあるのかもしれない。しかし、このナポリの街の過酷すぎる現実に打ちのめされ、明るい気持ちにはなれなかった。


第31回東京国際映画祭
会期:平成30年10月25日(木)~11月3日(土・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:https://2018.tiff-jp.net/ja/

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)