【TIFF】ナポリ、輝きの陰で(コンペティション)
作品紹介
治安の悪さで揺れるナポリ。ぬいぐるみの露天商で家族を養う男は、娘の歌の才能に希望を見出し、歌手として売り出そうと懸命になるが…。(TIFF公式サイトより)
クロスレビュー
折田侑駿/父娘の顔面≒画面の強度:★★★★★
露店でのぬいぐるみ商売が生活の糧である一家。「うちは問題ばかりなのに食ってばかりだ」と食卓で愚痴をこぼす父は、娘であるシャロンを歌姫にすることに躍起になるのだ。実際にこの地域で暮らす父娘が、そのまま父娘役を演じ、スレ違い、行き過ぎるそれぞれの想いが、画面に焼き付けられていく。この「想い」を表出させる父は、娘の本当の「想い」を見過ごすどころか、歌によって自身の“想像上の娘の「想い」”を語らせてしまう。カメラはこの父娘を中心とした一家と、少数の関係者だけを捉え続ける。被写界深度が浅く、人物が主体であるこの映画には、舞台であるナポリの姿はなかなか見られない。画面に大きく写し出された彼らの顔に滲む葛藤こそが、このナポリの陰の部分を雄弁に物語っている。ここに生きる彼らの顔を見つめ続けることで、背景としてのナポリが浮かび上がってくるのではないだろうか。
鈴木こより/シャロンはローレンになれるのか?:★★★☆☆
映画初主演のシャロン・カロッチャの強い存在感に将来性を感じる。監督がようやく探し当てた逸材だというが、上映後のQAではサプライズでナマ歌を披露するなど、度胸も愛嬌も充分。大女優も夢ではないかも。そんな彼女の魅力を引き出した作品ではあるが、家族が必死で抜け出そうとし、原題にもなっている”Crater=ナポリの陰”といわれる街の様子がほとんど伝わってこない。カメラワークからそれが意図的であることはわかるが、父親のステージパパぶりがエスカレートしていくだけの単調な物語になってしまったのが残念である。とはいえ、このヒロインにはソフィア・ローレンのデビュー前のエピソードを重ねてしまい、どうしても惹きつけられてしまう。ローレンもナポリ近郊の街で貧困から抜け出すために、ステージママの母親と二人三脚でスターを夢見て美人コンテストに出続けていたという。はたしてシャロンの家族は抜け出せるのか。
【第30回東京国際映画祭(2017)開催概要】
開催期間:2017年 10 月 25 日(水)~11 月 3 日(金・祝)
会場:六本木ヒルズ(港区)、EXシアター六本木 他
公式サイト:http://www.tiff-jp.net