『武曲 MUKOKU』熊切和嘉監督

「登場人物をたがが外れた境地にもっていきたい」

——熊切監督が理想的だと考える、現場における役者と監督の関係は?

人によりますからね、ほんとに。どうしても、二人俳優がいて、片方が一発目でいい芝居を持ってくるタイプで、もう片方は時間がかかるタイプで、というときは、演出家がそこを読んで何回目に合わせるように仕向ける、みたいなことは考えますけど。ただ、波長が合う人っているんですよね。でもやっぱり、一番は委ねてくれる人がいいです。「僕は全力でやりますから、どうぞご自由に撮って下さい」という。


——今回、印象に残っている綾野さん、村上虹郎さんの撮影中のエピソードをそれぞれ教えていただけますか?

綾野くんはですね、嵐の決闘のときに父親の幻を見るというシーンがあるんです。わりと伸びやかに演じてもらってはいるんですけど、ああいうシーンはどうしても仕掛けがからむので、フレームもかっちり決めなくてはいけないし、CGも絡んできますから結構制約をつけざるを得なくて。どうしてもその前の長まわしで撮った部分とテンションがつながらなくて。何度かやってみたのですが、さすがの綾野くんも、「正直ちょっと制約が多すぎて、なかなか難しいんです…」という状況に。そりゃそうなって仕方ない状況だったんだけど、「そこを何とか…」って言ったら、「わかりました、やってみます」って。「本番!」となったら綾野くん、立ち位置は厳密だったのでその場で一切動かず、「ワーッ!」と雄叫びをあげて上半身だけ動かしてそのテンションに持って行って構えたんですよ。そこですぐ「よーい、スタート!」で撮ったら、あのテンションにつながったんです。一瞬にしてあそこに持って行けるのは、ちょっと感動しましたね。

——村上さんについてはいかがですか?

印象に残っているシーンはいっぱいあります。すごく撮っていてキラキラしてるんです。海に入るシーンのときに横顔を撮っていて、ホントにいい表情するなと思って。撮ったあと、つい僕も素直に「やー、虹郎、ほんといい表情するねぇ〜」って言ったら「へへ」って照れたんですよ。それが可愛いなと思って(笑)。既成の俳優ではあんまりない感じがしましたね。すごく新鮮でした。

1 2 3 4

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)