【スウェーデン映画祭】モダン・プロジェクト

喜劇ジャコウネズミの哲学

モダン・プロジェクト人はなぜ幸福にはなれないのか。人はなぜ孤独なのか。心理学専攻の学生サラとシモンは、その原因を突き止め、ひとつの実験をする。その名は「モダン・プロジェクト」彼らは、希望してきた若者グループと、人里離れた一軒家で共同生活を送る。大自然の中で、出来るだけ無になり、人間の欲望と対峙していこうというのが、1つのコンセプトのようだ。そのため、外から見れば、まったく無意味とも言える行動を日がな一日繰り返している。率直に言うと、最初はこの作品、“遅れてやってきたドグマ95”という雰囲気があって、とっつきにくい感じがした。しかし、我慢して観ているうちに、特にシモンに権力欲が芽生え、共同研究者のサラの言う事にも耳を傾けず、専制者になり、グループに歪みが生じ始めたあたりから、俄然面白くなってくるのである。堅苦しい外見とは裏腹の、これは人間コメディ、哲学コメディなのだ。

お金を稼いで、家を買っても、またさらに広い家がほしくなり、どこまで行っても幸福にはなれない。お金を稼いてヨットを買っても、使う時間がない。幸福を追求することで、人生かえって幸福が逃げていく。それどころか、人間はどこまでいっても幸福にはなれず、孤独になっていく。そこに欲望があるからである。一見すると確かに一理ある。しかしグループの若者の1人からの質問「子供を作ることはどうなのでしょうか」というのに対しても、シモンは「そんなことは無駄だ」と答えてしまうのである。それは、どこか環境保全を訴えたその先に、人間がいなければ環境は良くなるという極論まで行ってしまう理屈に似て、とても非人間的であり、もう初めの段階から、このプロジェクトの失敗は目に見えていたのである。

 シモンの言っていることは、いわば「ジャコウネズミの哲学」とでも言えるものである。「ムーミン」に出てくる、ハンモックでいつも寝ている、あのジャコウネズミである。「すべてが無駄であることについて」という本を愛読し、いつも「無駄じゃ、無駄じゃ」と呟いているだけの、あの哲学者である。シモンが1人で行動するようになってからの、バスローブを羽織っただけのあの姿も、偶然かもしれないのだが、どこかあのジャコウネズミを彷彿させられてしまう。こういう独善的な人に、人は絶対付いていけない。(ジャコウネズミを優しく擁護するムーミン・パパでもいれば別なのだろうが)加えてシモンは、自分が今、世界で唯一有意義なことをしていると、自己陶酔さえしているのだから始末が悪い。それこそ無駄なことではないか。なぜ人は孤独になるのか。その答えは、それを日夜考えていた彼自身にあるのが皮肉である。彼が集団を離れても、もはや誰も気にしなくなるのは当然だ。シモンは、飛行鬼から「すべてが役に立つことについて」という本をプレゼントしてもらうべきだったのだ。(「楽しいムーミン一家」より) シモンの愚かさは、この作品の笑いの核となっている。

 この作品を観ていると、むしろ無駄なものにこそ意味があるということに、改めて気が付く。皆で集まって改まった会議をするよりも(これには有意義なものを導き出さなくてはならないという前提がついてしまう)、無駄話の中にこそ本音や、真実が出てくるものだ。例え、自分が何かを出来るわけではなくても、貧困の問題を考え意見を交換することにも、意味があるはずだ。後に何も残らないお祭りの馬鹿騒ぎだって、皆で何かをしたということ自体に、喜びがあるはずだ。人には欲望が必要だ。人は何よりも、生きている実感がほしいのである。それが得られる限り人は幸福なのである。無駄なものに情熱が傾けられるからこそ、人生は素晴らしいのである。物事の価値をお金で換算したり、シモンのように自分がしたことに対して対価を期待したりするから、人は不幸になるのである。孤独になるのである。シモンを他山の石として、そういうことを感じさせるという意味では、彼の「モダン・プロジェクト」は大失敗だったが、作品としての『モダン・プロジェクト』は成功だったと言える。


【スウェーデン映画祭 2016開催概要】

上映時間等詳細は公式サイトでご確認下さい。
ポスター
■開催期間:2016年9月17日(土)〜9月23日(金)
■場所:ユーロスペース(渋谷区円山町1−5)
■主催:スウェーデン映画祭実行委員会
■公式WEBサイト:http://sff-web.jp/
【ご注意】
前売り券は、全ての作品共通の鑑賞券となりますので、前売り券をお持ちの方は、ご来場当日に入場整理券(番号)への引き換えが必要となります。
入場整理券は、当日の午前10時30分から劇場窓口にて引き換えいたします。
前売り券の有無や購入日は入場整理番号には影響いたしません。
※前売り券は3回券のみの販売になります。また、上映日時や座席の指定はできません。
※上映開始10分前より整理番号順にてご入場いただきます。
※満席になりますと、前売り券をお持ちでもご入場いただけませんのでご注意ください。

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