ハイヒール革命!

♂それは、アイデンティティを守って、確立する人生の革命♀

ハイヒール革命!メイン

(C)2016「ハイヒール革命!」製作委員会

[ネタばれあり!](後半以降、具体的な内容に触れているところがありますのでご注意ください)

最近LGBT「L:レズビアン(女性同性愛者)、 G:ゲイ(男性同性愛者)、B:バイセクシュアル(両性愛者)、T:トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)」という言葉を耳にする機会が多くなった。しかし、8月ニュースで取り上げられた、一橋大学法科大学院の男子学生が、カミングアウト後自殺した事件などを見るにつけ、それがどういうものか、実はわかっているようでいて、正確にはよくわからないというのが、まだまだ本当のところなのではなかろうか。本作は、トランスジェンダーである主人公真境名ナツキ(本名:真境名薫、以下ナツキで統一)を通して、LGBT について“考える”きっかけを作ってくれることだろう。映画は、ナツキへのインタビュー、彼女の母親や友人、元同級生などへのインタビューと、再現ドラマの二部構成になっている。ドラマでナツキを演じたのは、大河ドラマ「龍馬伝」などで注目を集めた濱田龍臣。15歳になった彼は、映画の中で初めての女装に挑戦している。作品の中に、ナツキ本人と濱田龍臣が対談する場面があるのだが、それが彼女の過去をさらに掘り下げる役割を果たしている。

ハイヒール革命!サブ2

(C)2016「ハイヒール革命!」製作委員会

ナツキのこれまでの人生は、大ざっぱに分けると3つの段階があるように思う。最初の段階は中学時代。「スカートで登校したい」というナツキの願いを校長が理解を示し、驚くべきことにそれを認めてくれたこと。確かにナツキの勇気、校長の判断、どちらも素晴らしい。しかし、それはあくまで形だけであって、彼女は自由になるどころか、かえって自分の中に閉じこもる結果になってしまう。
2つ目の段階は、定時制高校時代。「周りが理解すれば障害はなくすことができるのかな」という先生の最初の言葉によって勇気づけられ、自分らしさを発揮できた定時高校生時代。女子の親友もでき、学生生活を満喫できたのだが、集団になると、完全にはそこに溶け込めない自分を感じることもあった。
3つ目の段階は、今のナツキ。手術をして身体も女性のものにだいぶ近づいてきている。同棲するパートナー、ヒカル(ナツキとは逆に元女子)もでき、主婦的な生活をしている。

これらは、トランスジェンダーの人たちが自己のアイデンティテイを確立し、自由になるために通らなければならない、ひとつの過程を示しているのではなかろうか。それは、周りの人の理解や力がなければ、自分だけではどうすることもできないことであり、それ故にこれまでの彼女は幸運にも恵まれていたと言える。それにも関らず、ヒカルの家の掃除をするナツキの顔はどこかさえない。学生時代に較べて広い社会に出たはずだった彼女は、今では逆に閉じこもりがちになっている。本当の女性になりたかったナツキは、今度は社会の求める女性という概念に囚われ、がんじがらめになっているのではなかろうか。

ハイヒール革命!サブ1

(C)2016「ハイヒール革命!」製作委員会

女性だからといって、皆がハイヒールを履きたいわけではない。スカートは出来るだけ履きたくないという人だって沢山いる。仕事をするにしても、パートに出て、家事を優先的にしたいという女性も沢山いる一方、バリバリ仕事をしたい人だっている。「男性は仕事、女性は家庭」という考え方にしてもまだ根強く残っている。女性はこうあるべき、というのはそもそも社会の枠が決めたことである。女性らしく生きたいという自由のその先には、別の不自由が待っていた。それが、今の彼女である。元女性であるヒカルは、自分が女性であることによって感じていた不便さを知り尽くしているからこそ、ナツキにもっと自由になってもらい、対等の関係を築きたいと考えているのに対して、まだ彼女はそれを理解できていない。スカートを履くという形から始まったナツキの人生は、周囲の理解という名の外堀を埋める段階を経て、真の自己の確立という段階に入ったのである。その先には、どういう女性(ヒト)になりたいのかということがあるのだ。女性らしさって何なのだろう。幸いにして、彼女には母という素晴らしいお手本がいる。子供への愛は紛れもなく女性(母親)のものなのだが、物事の割り切り方はとても男らしい母。そもそも男らしいとか、女らしいということ自体が、社会の枠に囚われているのかもしれないが・・・。今度は、彼女の“素晴らしい”母の力ではなく、パートナーのヒカルの力でもなく、彼女自身でそれを克服していかなければならないのである。そして実はその第一歩が、この映画であるのかもしれない。そういう意味では、『ハイヒール革命!』はまだまだ革命の途上にあると言えるだろう。


『ハイヒール革命』公開情報

※9月17日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
★レイティング:G
★配給・宣伝:新日本映画社
★公式サイトhttp://highheels.espace-sarou.com
★公式FB https://www.facebook.com/highheels2016/
★公式Twitter https://twitter.com/highheels0917

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