【SKIP CITY IDCF】アウト・オブ・マイ・ハンド ： 映画と。

【SKIP CITY IDCF2016】長編コンペティション部門

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まだ夜も明けぬ早朝、青く輝くカンテラを下げて主人公シスコは仕事に出かけて行く。仕事場は、緑のゴム農園。樹にナイフで切り込みをつけると、白い樹液が溝に沿って流れ出し、吊るされた赤いバケツに溜まっていく。バケツに溜まった樹液を天秤棒で担いで運び、ゴム園の外れにあるタンクに入れる。夕方までこの作業の繰り返し。重労働である。2人ペアを組み、ノルマも課せられているようだ。時々、監督官がやってきて、タンクの中身をチェックし、小言を言って帰っていく。体調不良で休んでいたなどという言い訳を聞く耳など持っていない。労働者の不満は溜まるが、為す術はない。樹の溝に沿って流れだしていく白い樹液は、まるで彼らの血のようにも見えてくる。

舞台は、アフリカの大西洋に面する、リベリア共和国。正直言って、まるで馴染みが無い。ただ以前、その国旗があまりにも、アメリカのものと似ていたことから、なぜだろうと、調べたことがある。それでこの国が、元々アメリカ解放奴隷の再植民により建国されたということを知った。彼らが英語を話していたのは、そういう理由なのだ。リベリアという国名は、英語のリバティーから来ている。しかし、物語を見る限り、この国に自由はない。仲間たちで起こしたストライキだったが、なんの成果も得られず、自分たちの首を絞めただけで、終わってしまう。
ストライキの結果に失望したシスコは、従兄を頼ってニューヨークに渡る。妻と子供2人を置いての、一大決意である。ストライキの痛い結末に対して「今までどおり働いて、同じ生活が続いていくのだから上等じゃないか」と言った仕事仲間の言葉、「なぜ自分たちは、ここで生まれて、このままここで死んでいくのだろう」という神父の問いかけに、目が覚めるような思いがしたのだろう。

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ニューヨークに行くと、そこには驚くべきことにリベリア人たちのコミュニティがすでに出来ている。幸運なことに、イエロー・キャブの運転手という仕事も見つかる。最初は温かく出迎えてくれたように見えた街だったが、ここでもシスコは冷たい現実にさらされる。夜も昼もないような過酷な労働。タクシーに乗ってくる雑多な人々。同郷なのに、彼ら労働者から搾取しようと、しつこく言い寄ってくるギャング。故郷では単純だったことが、ここではより複雑になっている。豊かな人にとって、彼は憐れむべき存在であり、同時に死んでも誰にも気にされない存在である。

ニューヨークは、まるで弱肉強食のジャングルのようであり、結局変わらないのは、彼が1番底辺にいるという事実だけだ。まるで彼は、車に積まれている、スペアのゴムタイヤのようでさえある。なぜだろう。シスコの最初の仕事、リベリアのゴム農園は間違いなく一番底辺だった。いわゆるこれはプランテーション農業。その上には、ここを支配するアメリカの会社がある。次に、その製品はタイヤメーカーへと渡り、自動車のタイヤとなる。その自動車を買ったタクシー会社は、リベリアから来た労働者を低賃金で雇うというわけで、見事に円環をなしているからだ。これは世界経済の単純なモデルのひとつ。その仕組みに取り込まれているからこそ、リベリアの労働者は、どこへ行っても、いつになっても這い上がれない、ということになるのである。日本人の福永壮志監督が、どのような経緯でこのようなマイナーとも言えるテーマを見つけ、製作したのかはわからないが、目の付けどころが面白い。『アウト・オブ・マイ・ハンド』…私にはどうにもならない。ここにいてもどうすることもできない。アメリカに行っても、そこは自分のいる場所ではない。このタイトルからは、まるで彼らのどうにもならない叫びが聴こえてくるようである。


※上映日時　7.19（火）11：00、7.23（土）14：00
上映作品の詳細や、スケジュールなどは公式サイトでご確認ください。

＜SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016 開催概要＞

■会期： 2016年7月16日（土）～7月24日（日）
■会場： SKIPシティ 映像ホール、多目的ホールほか（川口市上青木3-12-63）
彩の国さいたま芸術劇場（さいたま市上峰3-15-1）
［7/17、7/18のみ］
こうのすシネマ（鴻巣市本町1-2-1エルミこうのすアネックス3F）［7/17、7/18のみ］
■主催： 埼玉県、川口市、SKIPシティ国際映画祭実行委員会、特定非営利活動法人さいたま映像ボランティアの会
■公式サイト：www.skipcity-dcf.jp