「クリスマス・ストーリー」デプレシャン監督が贈るクリスマスプレゼント


 クリスマスのお話だから、と言ってハートフルなドラマを想像すると見事に裏切られる、ある家族の群像劇。
 
アベル(ジャン=ポール・ルシヨン)とジュノン(カトリーヌ・ドヌーヴ)は長年連れ添った仲のいい夫婦。ところがある日、ジュノンは骨髄移植が必要な病に侵されていることが発覚。奇しくも彼らの長男ジョセフは、白血病に罹り、移植の適合者がいないまま幼くして亡くなっていた。残る3人の子供たち…生真面目なエリザベート(アンヌ・コンシニ)、問題児で家族から絶縁されていたアンリ(マチュー・アマルリック、やんちゃぶりが最高!)、内気なイヴァン(メルヴィル・プポー)。彼らの中で、母と適合する骨髄を持つものはいるのだろうか? 母の病気をきっかけに、彼らはそれぞれの家族を連れて久しぶりにクリスマスに集まるのが…。

この映画には、仲の悪い人たちがたくさん登場する。エリザベートは借金返済の代わりに、何事にもだらしない弟アンリの「追放」を提案し、他の家族はそれを受け入れてしまう。母ジュノンもアンリを「嫌っている」と当の本人に向かって言い、アンリもジュノンを母と呼びたくないほど嫌悪している。日本人の感覚では考えられないような人間関係が、この映画では次々と展開していく。

かといって、目を背けたくなるほどギスギスしたものではない。親子兄弟であるとはいえ、自分の意見や感情ははっきり伝える。これがいわゆる個人主義と言うものなのかと感心させられてしまうほどだ。また、典型的なファミリードラマで言えば母親の役割であろう家族の潤滑油・アベルの立ち位置が絶妙。妻の心配をし、トラブルを起こす家族の面倒を見、家事をこなす働き者。バラバラになりそうな家族をつないでいるのは彼なのだ。さらに言えば、このドラマの底辺に流れているのは、ヒトクセもフタクセもある人間たちへの愛おしさであり、アルノー・デプレシャン監督の視線であるようにも思える。

物語の大きな転換期となるのは、ジュノンに適合する骨髄の持ち主はアンリだったという神様のいたずらのような事実だ。「自分はジュノンの子ではないのかも、と思っていたけれど、本当に血が繋がっていたんだな」と語る息子。「お前の骨髄など自分に適合しない」と悪態をつきながらも移植を受け入れる母。もちろん、それをもってこれまでの関係がすべてチャラになるほど安易な話ではない。しかし、クリスマスの後に、それぞれの心に小さな灯が宿っている。穏やかな変容、とでも言うべきか。

私は冒頭、「クリスマス映画と思うと裏切られる」と言ったが…実はこれこそが本当のクリスマスにふさわしいドラマなのかもしれない。

Text by 外山 香織

オススメ度★★★☆☆

製作国:フランス 製作年:2008年
監督・脚本:アルノー・デプレシャン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジャン=ポール・ルシヨン、アンヌ・コンシニ、マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポー、キアラ・マストロヤンニ
(c)Jean-Claude Lother/Why Not Productions

公式サイト 

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