激戦 ハート・オブ・ファイト
これはもう、久々に「香港発の大傑作!」と声を大にして言いたい。『激戦 ハート・オブ・ファイト』。総合格闘技(MMA)にすべてを懸ける男たちの暑苦しいだけの映画だと思ったら大間違い。師弟愛あり、親子愛あり、そして何より、人生のどん底に落ちた者が、拳一つで“何か”をつかもうと全てをかける姿が胸に響く。その“何か”が何なのかはおぼろげだが、掴めば再び浮かび上がれるに違いないともがく。そんな登場人物たちを優しい視点で捉えた人間ドラマと、本気度100%の格闘技ドラマの掛け合わせ具合がなんとも絶妙なのである。
やはり触れておかずにいられないのは、主演のニック・チョンとエディ・ポンのボディメイク。思わず「CGかよ!」とツッコミをいれたくなるほど、まるで絵のように完璧に鍛え上げられているのだ。
正直、エディ・ポンがここまで肉体派俳優として成功するとは思っていなかった。台湾版「あすなろ白書」や「ハチミツとクローバー」などのアイドルドラマで人気を博し、優男系が多い台湾俳優のなかでも、ひときわピュアで可愛らしいイメージが強かった彼。それが2011年『ジャンプ!アシン』で身体に障害を持つ体操選手を演じて高く評価されて以降、近年はアクションからラブストーリーまで中華圏の映画に引っ張りだこだ。今作では、破産して酒びたりの父親のために、多額の賞金が出るMMAマッチ参戦を決める元富豪の息子を演じているが、ギラギラ感は皆無。エディ本来の持ち味が手伝って、師匠にひたすら従順で、懸命にトレーニングに励む姿がまるで人懐っこい犬のよう(それも大型の洋犬)。それが結果としてこの映画に、格闘技映画というイメージにとらわれない優しい色合いを与えている。
この映画には、余計な悪役も、策略や恨み妬みといった邪魔な横糸も登場しない。助け合いながらも、各々がそれぞれ自分との闘いに挑んでいく。遅咲きのベテラン、ニックが名曲「サウンド・オブ・サイレンス」にのせ、衰えゆく身体に鞭打ち、一人黙々とトレーニングに励む姿は、本作の清々しいストイックさを代表するよな鳥肌ものの名シーンだ。
作品ごとにガラリと印象を変えるニック・チョン。本作に続き、再びダンテ・ラム監督と組んだ『クリミナル・アフェア 魔警』(2月14日公開)では一転、憎たらしい凶悪犯を演じている。ハートウォーミングな『激戦~』とは打って変わって人間の心の闇を描き出している『~魔警』。公開時期が近いので、ぜひ両方見比べて2人の振り幅の広さに驚いてほしい。
▼作品情報▼
『激戦 ハート・オブ・ファイト』
原題:激戦Unbeatable
監督:ダンテ・ラム(林超賢)
出演:ニック・チョン(張家輝)、エディ・ポン(彭于晏)、メイ・ティン(梅婷)、クリスタル・リー(李馨巧)
提供・配給:カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ブロードメディア・スタジオ
2013年/香港=中国/116分
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新宿武蔵野館他にて公開中
公式HP http://gekisen-movie.jp/