【FILMeX】密告者(コンペティション)

交錯する二つの人生の先にあるもの

(第11回東京フィルメックス・コンペティション作品)

※核心に触れる部分がありますのでご注意ください

観終わった後、深いため息をついてしまう。この感情は一体なんだろう?

密告者を使って捜査を進める刑事、ドン。以前、密告者に瀕死の重傷を負わせた経験を持つ彼に、犯罪集団の首謀者を逮捕するため新たな密告者を使う命令が下る。刑務所を出たばかりのガイに目を付けたドンは、たった一人の妹を救うためだと彼を説得し、宝石強盗を画策するグループに潜入させる。しかし、事態が進むにつれ、またしても密告者の命が危険に晒されていく…。

捜査官は密告者を「友人のように扱え」とレクチャーを受ける一方、真の友人にはなりえないということも教わる。密告者に危険が迫った時、捜査官は密告者の命と捜査の存続(犯罪者の逮捕)を秤にかけるという困難な判断を突き付けられる。苦い過去を持つドンは、新たな密告者ガイに対しどのような関係を構築するのか、再び同じ局面が訪れた時に、彼はどんな判断をするのか…それがこの作品の核となる部分だ。

注目すべきは捜査官と密告者の明確な対比である。トラウマに苦しみ、自らの大切な人をも失いながらも仕事を続けるドン。一方、刑務所を出たばかりのガイには、新たに人生をやり直せるチャンスと守るべき家族が待っている。その二つの人生が交錯し、捜査官と密告者が、ただ一つの目的である「犯罪者の逮捕」に向かい、友情にも似た絆が生まれる。

ところが、二人の人生はやがて最終的に行き違っていく。過酷な運命に翻弄され、自ら死を望みながらも死ねない男と、生きたいと切望しながら死に瀕していく男。権力の側にある人間と使われる側の人間。本人たちがどうあがいても埋められない溝。最後までその両者の対比は貫かれており、そこにどうしようもないやりきれなさと寂寥感が観る者の体を支配する。これぞ「ノワール」と言うべきものなのだろう。

本作の監督は、クライムアクションに定評のあるダンテ・ラム(林超賢)。追いつめられた人間の心の叫びを描きながらも、派手なカーアクションや警察と犯罪集団の攻防と言った緊迫シーンも随所に盛り込み、エンタメ的にも見ごたえのある作品に仕上がっている。役者陣の奮闘も見事だ。捜査官役ニック・チョンが見せる感情の揺れと高ぶり、密告者を演じたニコラス・ツェー(イケメンすぎる感があるが…)の悲しげな視線が印象的。コンペ部門での健闘を期待したい。

Text by 外山 香織

オススメ度★★★★☆

製作国:香港 製作年:2010年
監督:ダンテ・ラム
出演:ニコラス・ツェー、ニック・チョン、グイ・ルンメイ
(c) 特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会

【第11回東京フィルメックス】
2010年11月20日(土)~11月28日(日)
有楽町朝日ホール、東劇、TOHOシネマズ日劇他にて
■一般お問合せ先
ハローダイヤル TEL:03-5777-8600(全日/8:00~22:00)
公式サイト

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