『クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落』ローレン・グリーンフィールド監督インタビュー

金融危機や強欲さ、野心、そして消費主義への訓戒的な物語

クィーン・オブ・ベルサイユ_main 無一文からタイムシェア(共同所有)リゾートビジネスで全米有数の大富豪にのし上がったデヴィッド・シーゲル。元ミセス・フロリダでブロンド&巨乳美女のジャッキー。この夫妻が米国最大の邸宅―ベルサイユ宮殿そっくりの豪邸建築を計画したとき、ローレン・グリーンフィールド監督はこの規格外なアメリカンドリームを記録すべく、大豪邸完成までのドキュメンタリー映画の撮影を2007年にスタートさせた。一般市民からは想像を絶する規模で自宅の建築は進んでいたのだが、2008年秋、リーマン・ショックによりシーゲル夫妻も1,800億円の純資産をもつ身から、わずか数週間で1,200億円の借金を抱える身に転落するという「平家物語」もびっくりの(?)栄枯盛衰ぶり。期せずして「大富豪のサクセスストーリー」のドキュメンタリー映画は、「大金持ちの転落記録映画」として完成することとなってしまったという、数奇な(?)運命を背負った作品だ。

偽ベルサイユ建築も「妻がベルサイユ宮殿が好きだから」という理由も何とも成金全開のアホらしさで、鑑賞前はいわゆる「お金に狂わされたバカップルの話」に徹した作品なのかと思っていた。確かに金融危機後、ジェット機を手放し、7人の子供のベビーシッターなど使用人は解雇され、室内に犬の糞が落ちていても誰も掃除しない有様。お買い物はブランドショップではなくウォルマート。夫は次第に引きこもりがちになり、妻の買物依存癖は治らないなど、負の要素はてんこ盛りだ。だが、「デヴィッドとジャッキーの人生すべてに興味をそそられた」とグリーンフィールド監督が言うとおり、夫妻独特の性格(特に妻の胆力)や窮地に陥った際の危機対応能力が浮き彫りとなり、何とも魅力的なドキュメンタリーに仕上がっている。人間とはピンチのときほど本性が出るものだ・・・と感嘆せずにいられない。

本作は2012年のサンダンス映画祭に出品。主宰のロバート・レッドフォードが映画を紹介し、デヴィッドがレッドカーペットを歩くなど話題を集め、ドキュメンタリー部門監督賞を受賞。それを皮切りに多数の映画祭で受賞を重ね、高評価を得てきた。以下、グリーンフィールド監督のインタビューを紹介したい。


 

ローレン・グリーンフィールド監督

ローレン・グリーンフィールド監督

――撮影中にリーマン・ショックが起こり、作品が当初の予定より変わることになりましたが、「これはおもしろい」と思いましたか?

ローレン・グリーンフィールド監督(以下グリーンフィールド):金融危機が、シーゲル夫妻の計画や人生、財産に与えた影響は、撮影開始時には予想もしていなかった形で、映画の語り口にとって極めて重要なものとなりました。この映画はアメリカンドリームの研究として始まりました。しかし次第に、アメリカンドリームと、私たちが、国として、個人として、アメリカンドリームを追い求め、道を失っていく様を、深く探求するものへと変わっていきました。しかし、私はそれを「笑える」ことだと言いたくはありません。この映画は、ベルサイユ建設計画についてのコメディとして始まりますが、デヴィッドとジャッキーが金融危機の圧力に対処していくにつれて、悲劇へと変化していきます。それは、家や夢を失うという現実に直面した、あらゆる社会経済レベルの家族たちと同じなのです。

――シーゲル夫妻が豪邸を建築していることを何で知り、なぜ彼らのことを映画にしようと思ったのですか?興味を惹かれた理由を教えて下さい。

グリーンフィールド:私がジャッキーと出会ったのは、2007年、ELLE誌のためにドナテラ・ヴェルサーチを写真撮影していた時でした。ジャッキーはその当時、ヴェルサーチの上客の一人で、洋服に100万ドルを使っていました。彼女は、とても社交的かつフレンドリーで、彼女の7人の子供たちが自家用機のタラップに立っている写真を私に見せてくれました。そして彼女の友人たちが、私がフロリダに行き、ジャッキーと子供たちの写真撮影することを提案したのです。
その後、ジャッキーからアメリカ最大の邸宅を建設していると聞いた時、私はその話に惹かれて、ぜひ家を見たいと思いました。家を持つことと、アメリカンドリーム、そしてそのアメリカンドリームが、好景気の間にどんどん大きくなっていく様、この三つの関係性に、私は長い間、興味を掻き立てられていたからです。
ヴェルサーチの開店パーティの晩に、私が撮影したジャッキーと彼女の友人たちの金色のバッグの写真は、TIME誌によって「新・金メッキ時代」というタイトルとともに、「今年の一枚」に選ばれました。それから初めてオーランドに行き、ジャッキーの家に滞在して、彼女と夫のデヴィッド、子供たち、ベビーシッターたちと共に時間を過ごした際、ただの一連の写真を撮るより、ここには映画的な要素があると感じ、最初のインタビューを行いました。そして、私はジャッキーとデヴィッドたちを知れば知るほど、彼らの人生を興味深く思えるようになっていきました。
映画を撮影しているさなかに金融危機が起こると、二人の性格のもっともっと魅力的な面が明らかになっていきました。デヴィッドは、億万長者であるにも関わらず、持っていたもの全てを自分の事業に賭け、彼の事業における最大の遺産、ラスベガスタワーを失います。ジャッキーは逆境に負けない人で、夫には彼らのライフスタイルをこれ以上続けられる資金がないかもしれないと思った時でも、夫に対し本物の愛情を示します。彼らの人生に起きたドラマティックな出来事によって、彼らの人格がより魅力的な形で浮彫りになったのです。

――監督から見た大富豪夫妻の面白いと思った点と、疑問に思った点はどんなところですか?

グリーンフィールド:デヴィッドとジャッキーの人生すべてに興味をそそられました。二人が貧しい生まれであることと、無一文から大富豪になったという物語が、皆が思う「普通」の億万長者より、もっと地に足がついた、親しみやすい存在にしているのです。ジャッキーは信じられないくらい寛容で、心が広く、付き合いやすい女性です。デヴィッドの労働観や、事業や従業員に対するひたむきな献身ぶりは、尊敬に値します。しかし、二人はアメリカ最大の邸宅を建設するという計画を持ち、並外れた生活を送っていました。ほとんどの人が、常軌を逸していてやりすぎだと考えるような目標です。しかし、リーマン・リョックや、財政的な苦労によって、彼らは現実の世界に呼び戻され、それがある意味、思いもよらなかった形で、彼らを共感できる存在にしたのです。
撮影で彼らを知るにつれ、本当に驚いたことがありました。一つはデヴィッドがラスベガスでではなく、自分の事業において、ギャンブラーだったということ。彼は10億ドル以上の大金を持っていましたが、6億ドルのラスベガスタワー(その当時、世界で最も高いタイムシェアのビルになる予定でした)建設に必要だったビジネスローンの、個人的な保証人になり、資産の全てを事業の成長に賭けたのです。
また私は、最初はジャッキーにも驚かされました。彼女は自家用機や豪邸を持ち、買い物三昧する億万長者の生活を愛しているように見えます、しかし、金融危機に見舞われると、家族を大事にする思いや、夫への愛が引き出されます。私が思っていたほど、彼女にとってお金は重要ではなく、どんなことがあっても夫のそばにいるであろうことは明白でした。ジャッキーは自分にお金が無い時でも、困っている友人にお金を貸してあげていましたし、つらい時期も家族をまとめようと努力していました。ジャッキーもデヴィッドも、金融危機による厳しい日々を通じ、サバイバーとしての彼ら本来の姿を見せてくれたのです。

クィーン・オブ・ベルサイユ_sub1 ――映画公開後にシーゲル夫妻と裁判になったと伺っています。そのことはアメリカでどのような反響がありましたか?

グリーンフィールド:デヴィッドは映画祭の晩、私たちとサンダンス映画祭を名誉棄損で訴えました。この物語が、彼自身が言った言葉なのですが、「大金持ちの転落物語」だと報道をされたことに基づき、訴訟を起こしたのです。私たちは訴訟に勝ち、弁護士費用として75万ドルを勝ち取りました。判事はこの映画内の発言はすべて真実だと判断しましたし、実際すべて真実です。デヴィッドによると、訴訟を起こした理由は、映画の最後で、彼の人生においてとてもつらい一章である、ラスベガスタワーを失う自分の姿を映っていることが、気に入らなかったためだからそうです。マスコミはこの訴訟を馬鹿げたものだと考え、そのように報道しました。マスコミや他の映画製作者は、最終的に私たちが裁判に勝ったこと、これが表現の自由の圧倒的な勝利でもあることを、とても喜んでいると思います。

――この映画を特にどのような人に見て欲しいと思いますか?

グリーンフィールド:本作をアメリカで公開して分かったことは、この映画は幅広い観客、若者やお年寄り、お金持ちや貧しい人々、中産階級、あらゆる出身の人たちにアピールするということです。ユーモラスでありながら悲劇的であり、普遍的でありながら象徴的で、娯楽性がありながらためにもなります。金融危機や強欲さ、野心、そしてそれを引き起こした消費主義についての訓戒的な物語なのです。この作品はアメリカンドリームの美点と欠点の両方について語っています。しかし、金融危機が世界中に与えた影響から我々が学んだように、アメリカンドリームは、世界中で同じような例を持つどこにでもあるような夢なのです。日本の観客の皆さんにこの映画を楽しんでいただければと思います。

<プロフィール>
ローレン・グリーンフィールド
写真家/映画作家。ハーバード大学でビジュアルと環境を学ぶ。若者カルチャー、ジェンダー、消費主義に関する数々の写真作品を発表。写真作品は広く出版、展示及び収蔵され、アメリカン・フォトによって最も影響力のある現役写真家25人の内の一人にも選ばれた。映像作品としては、本作のほかに『THIN』『kids + money』『Beauty CULTure』を発表。自身初の映像作品『THIN』は2006年サンダンス映画祭のコンペ部門に正式招待、ほかにもグリアソン・アワードを受賞した。また2009年『kids + money』でシネマ・アイ・オナーズ世界のノンフィクションショート作品のトップ5に選出された。本作では、サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門監督賞を見事受賞した。

▼作品情報▼
Queen of Versailles_sub2監督:ローレン・グリーンフィールド
出演:デヴィッド・シーゲル、ジャッキー・シーゲル
原題:The Queen of Versailles
2012年/アメリカ・オランダ・イギリス・デンマーク合作/100分
配給:スターサンズ
公式サイト:http://www.queen-cinema.jp/
©2012 Queen of Versailles, LLC. All rights reserved.
2014年8月16日(土)より新宿武蔵野館ほかロードショー

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