『サンシャイン/歌声が響く街』デクスター・フレッチャー監督インタビュー:個性派俳優の監督作品第2弾、裏にオペラ演出家の妻の後押し
『アナと雪の女王』『レ・ミゼラブル』など、観客も一緒に楽曲を口ずさめる映画がすっかり最近のトレンドだが、スコットランドからまた新しいミュージカル映画がやって来た。
8月1日から公開中の『サンシャイン/歌声が響く街』の舞台は、ユネスコの世界遺産にも登録されているスコットランドの首都エディンバラの港町リース。『トレインスポッティング』(96)も同じリースを舞台にしているが、こちらが“陰”の部分を切り取った作品だとすると、本作はタイトルどおり“陽”の顔を照らし出す。リース出身の双子デュオ、プロクレイマーズの楽曲ですべてのミュージカル・シーンが構成され、この町で暮らすある家族と、若い男女の愛と希望の物語を盛り上げる。
オリジナルは2007年に英国で初演された大ヒット・ミュージカル。映画化にあたり、監督を任されたのは、子役からスタートして、『エレファントマン』や『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』などに出演してきた個性派俳優デクスター・フレッチャーだ。2011年『ワイルド・ビル』(未)で監督デビューし、高い評価を得たフレッチャーが、監督第2作目として本作を選んだ理由、お気に入りのミュージカルなどについて、たっぷり語ってくれた。
子供の頃からミュージカルが大好きでしたし、妻がオペラの演出家で、ここ数年、音楽を通してどういうストーリーテリングができるのか、音楽だからこそ表現できることは何なのかという話をよくしていたんです。撮影中に妻から具体的にアドバイスをもらったことはないですが、監督第1作目が評価されていろいろな企画が持ち込まれるなかで、音楽という表現のツールが監督として増えるのだから、このミュージカルをぜひやるべきだと背中を押してくれました。
この映画の脚本は、舞台と同じ脚本家が戯曲をもとに書いたものです。読んだときにストーリーやキャラクターに感情移入でき、さらに音楽を聴いて、きっと独創的でユニークな作品が作れると思いました。
‐‐オリジナルの舞台のファンの期待も高かったと思います。映画化にあたって大切にされたことは?また、映像だからこそ取り入れたものは?
まず、オリジナルのファンの気持ちももちろんリスペクトしていますが、あまりファンの要求を気にしすぎてはいけないと思います。気にかけると制約になる。監督というのは、自己中心的に、自分のビジョンのために戦わなければなりません。
舞台だとハコがありますが、映像はその壁を乗り越えて世界を広げられることが魅力の1つだと思います。丘の斜面から町を見下ろしたり、本物のパブで撮影したり。自由なカメラの動きやロケーションなどに遊び心を持ち、楽しくエディンバラを見せることができる。エディンバラという町がキャラクターの1つにもなっているんです。
‐‐その町並みですが、スコットランドの町並みが美しく、まさに主役の1つでした。監督はイングランドのご出身ですが、それがスコットランドの町を魅力的に観客に伝えることに、プラスに働いた部分もあるのでは?
それはあると思います。場所の美しさを捉えるときは、やはり感傷的過ぎていはいけないと思います。かといって、ロマンティックじゃないというわけでもない。ただ、イングランド人ということで、人工甘味料のような甘さのしつこいセンチメンタルとは違う、純粋なロマンチシズムといった画が撮れるのかなとも思うんです。今回のようなミュージカルでは、音楽自体が感情を喚起するものなので、簡単に感傷的になりがち。でも、そうなり過ぎないことを意識することで、よりドラマがパワフルになるのではと思います。外部から来た者の冷静な目で見て撮っているからこそ良かったのかもしれませんし、映画を撮っているうちに、スコットランドという土地に恋をしていった私の感覚が映画の中の風景から感じ取っていただけるのかもしれませんね。
‐‐今回の映画に生かされた過去のミュージカル作品は?
『雨に唄えば』(52)は子供のころから大好きなミュージカル映画です。とても良く出来ているし、人生とハートがつまっている。これは映画から舞台化された作品なんですよね。実は今回の『サンシャイン~』も、(話が来たとき)すでに上演が終了していて私は舞台版を観ておらず、物語を読んで最初から映画として思い描いたものなんです。
あと、映画版『キャバレー』(72)もいいですね。歌というのは誇張が入ってくるものですが、並列しているドラマ部分が地に足がついていてリアルなところが好き。今回もそういう作品にしたくて参考にしました。
『マンマ・ミーア!』(08)は観てはいますが、参考にはしていません。『サンシャイン~』をスコットランド版『マンマ・ミーア!』だと言ってくださる人もいますが、それは同じミュージシャンの楽曲だけで1本のミュージカルを作ったからということだと思います。作品のトーンとしてはもう少しシリアスにしたはずなので、タイプがちょっと違います。あれくらいの興行成績を上げられるなら嬉しいですけど(笑)。
Profile of Dexter Fletcher
俳優として『ダウンタウン物語』(76)、『エレファントマン』(80)、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98)など数々の映画に出演。監督デビュー作となった『ワイルド・ビル』(11)は、英国出版協会の最高優秀番組賞、英国アカデミー賞の最優秀新人映画部門にノミネートされた。現在、BBCフィルムズとともに『Provenance』(原題)を製作中。
▼作品情報▼
『サンシャイン/歌声が響く街』
原題:Sunshine on Leith
監督:デクスター・フレッチャー
脚本:スティーブン・グリーンホーン
出演:ピーター・ミュラン、ジェーン・ホロックス、ジョージ・マッケイ、アントニア・トーマス、フレイア・メーバー、ジェイソン・フレミング、ケヴィン・ガスリー
配給:ギャガ
2013年/イギリス/100分
ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほかにて公開中
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