アイルトン・セナ 音速の彼方へ

音速で人生を駆け抜けた貴公子

Photographer: Angelo Orsi / (c)2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

アイルトン・セナ。F1界が一番盛り上がっていた時代のヒーロー。その速さや悲劇的な死について今でもよく覚えている人は日本にも少なからずいるだろう。
だからだろうか。アイルトン・セナのレース人生にスポットを当てたこの映画は、日本で真っ先に公開され、日本での映像も数多く含まれ、各地で公開劇場数を増やしている。

実際に観て感じたが、この映画はドキュメント映画としてとても優れた映画だ。セナのプライベートについての説明を極力排し、アラン・プロストとの対立、FIA会長のジャン=マリー・バレストルからの政治的圧力、相手チームのハイテクマシンとの戦いで自分のチームのマシン調整がうまくいかないいらだちなど、セナのレーサーとしての苦悩に焦点を当て、その苦悩を乗り越えてチャンピオンとなるセナの達成感や能力の高さ、何よりもセナの前に前に進もうとする意志の強さに感動してしまう。
セナはいい人でした、悲劇的な死に方で可哀想でした、というお涙頂戴でなく、当時のセナの置かれた状況を分かりやすく説明してあるのがよい。客観性を持った、ドキュメントとしての理想の形を提示している映画なのだ。

映画は、1994年サンマリノGPでのバリチェロの大クラッシュ、ラッツェンバーガーの事故死と不吉な前兆を醸し出し、最後の悲劇的な事故へと向かう。もうこれは結果が分かっている事なのに、ドキドキしてしまう自分がいた。これ、やはりドキュメントとして優れているからだと思う。

この映画を観ると、セナが祖国ブラジルを愛し、当時貧困に喘いでいたブラジルにとってセナが数少ない希望の星であった事を感じさせる。人に夢や希望を与える人たちは、こうやって早死にする事が多い。セナもまた、ブラジルや世界の人に夢や希望を与えるために命を削ったのかもしれないと、映画の硬派な作りと反対のセンチメンタルな気分になった映画だった。

おススメ度:★★★★★

原題:SENNA
監督: アシフ・カパディア
制作:2010年
出演:アイルトン・セナ他

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