『アルカナ』土屋太鳳さんインタビュー
むむむっ、吸い込まれる・・・。
取材中、筆者の目をまっすぐに見つめて、こちらの質問に丁寧に答えてくれるのだが、そんな彼女の瞳があまりにも澄んで美しくて、不覚にも恥ずかしくなってしまったくらいだ。同性だというのに・・・。
土屋太鳳さん、18歳。『トウキョウソナタ』でデビューし、ドラマ「鈴木先生」(テレビ東京)の小川蘇美役で高い評価を得、来夏公開の『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』では巻町操役での出演が決まったという、今もっとも注目される若手女優のひとりだ。そんな彼女が映画初主演を果たした『アルカナ』。原作は小手川ゆあさんのマンガで、“人間本体”とその“分身”が共存する世界で、分身が本体の心臓を奪い、乗っ取ってしまう・・・という事件が多発。霊能力を持つ美少女マキ(土屋さん)と村上刑事(中河内雅貴さん)が心を通わせながら分身に立ち向かうという物語だ。土屋さんは初主演ながら一人二役に挑んだ。
性格の異なる、ふたつのキャラクターの演じ分けについて「衣装や髪形やメイクなどの外見から役に入り、それぞれのキャラクターをつくっていきました」と、まずは外見重視の土屋さん。「その方が気持ちが入りやすいから」。特に衣装選びやメイクにはこだわり、スタッフと話し合いながら6時間ほど費やした。「こんなに長い時間をかけたのは初めて」。また、本作での土屋さんは長い髪で顔半分を隠すようなスタイルだが、「原作でのヒロインはショートヘアだけど、スタッフさんとも相談して決めました」。そのスタイルゆえに、スクリーンには土屋さんの顔半分の表情しか映らないのだが、それでもヒロインが内包する複雑な感情が伝わってくる。そして何より目力がすごい。記事冒頭にも触れているが、吸い込まれそうな瞳で、観る側に迫ってくる。
初めての主役に決定したときの気持ちを、土屋さんは「本当に嬉しくて・・・。でも、嬉しいと同時に主役としての責任を感じて、台本を受け取るときの気持ちが今までとは違いました」と、これまで以上に共演者やスタッフとコミュニケーションをとっていこうと思ったそう。インタビューでも“スタッフさん”の的確な仕事ぶりを常に立てる。彼女の主役としての責任感が、自然とそうさせているように感じた。
現役の大学生でもある。この春、体育大学に入学し舞踊学を専攻。学業と仕事の両立は「授業の課題やテストもあって、本当に大変」だが、「大学の勉強が女優の仕事にも役に立っています」と断言する。現在は『るろ剣』続編を撮影中だが、「体で何かを表現することが生かされている」と美しい瞳を一段と輝かせる。土屋さんは可憐なイメージと裏腹に、アクション好きとして知られているが、『アルカナ』でのアクションは主に共演の中河内雅貴さんや分身のリーダー役Kaitoさんが担当。「近くで見ていて、やりたくなりましたね」「Kaito君とはドラマ「黒の女教師」(TBS)でも共演していて仲が良いんですが、ものすごくアクションが上手くて・・・」と羨まし気味だ。その鬱憤(?)をぜひとも『るろ剣』でぶつけてほしいところ。「やっぱり難しいですね。でも若手女優がちょっと頑張ってます的な、生ぬるい感じにはしたくない。動きにとらわれすぎず、操の感情を出しながら、演じられるように努力しています」と意気込みを語ってくれた。
『アルカナ』はジャンル的にはホラーに入るだろうか。「ホラーが苦手な人もいらっしゃると思いますが、(ホラーが)大丈夫そうな人を誘って、一緒に見に来て下さると嬉しいです」とファンを気遣いながらのアピール。映画には、分身が本体の心臓を取り出すシーンが多数ある。土屋さん自身も「(分身が)心臓を食べるシーンが苦手で・・・」と告白。いや、筆者もくちゃくちゃと音を立てて食べているシーンがやけにリアルでダメでした・・・。ただ土屋さんは、原作を読んで「ホラーというよりも、命をめぐる悲劇に感じた」ので、悲劇を強調するような演技を意識したという。「でも、ラブホラーっていう感じとも言えるのかな・・・」。その“ラブ”は村上刑事に対して?それとも演じる中河内さんに対して?「演技のときにしっかり出すようにしていました(笑)」。
さらなる活躍が期待され、先頃は来年度前期のNHK連続テレビ小説「花子とアン」では、ヒロイン吉高由里子さんの妹役で出演することも発表された土屋さん。今後はどんな女優になりたいと考えているのだろうか?「今はまだ18歳の感情しかないので、感情の引き出しを増やしていきたいですね。頂いた役をしっかり生きることができたら、また次の役に出会えると思うので、今を大事に、今しか感じられない雰囲気や感情を自分の引き出しに増やして、いろいろな感情を出せる女優になりたいです」。
〈後記〉
土屋さんを取材して以来、どうしたらあんなに美しい瞳になれるのか・・・をヒマさえあれば考えるようになった。当然、「年のせい」と言われればそれまでなのだが・・・(汗)。彼女の場合はただ美しいだけではなく、自分のしっかりした意思を感じさせる。それは、役や作品に対する責任感の強さや、将来の女優像が明確であることからくるものだろう。今後、映画館やテレビで彼女が登場する機会が多くなるのは確実だが、きっと“感情の引き出し”の中身が増えて、また違う彼女の姿を見られるのではないだろうか。今から楽しみだ。
〈プロフィール〉
土屋太鳳(つちや・たお)
1995年2月3日、東京都生まれ。『トウキョウソナタ』(08)で映画デビュー。以後、『釣りキチ三平』(09)、『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』(10)、『日輪の遺産』(11)、『映画 鈴木先生』(12)で着実にキャリアを重ねる。
▼作品情報▼
監督:山口義高
出演:土屋太鳳、中河内雅貴、Kaito、植原卓也、谷口一、谷口賢志、野口雅弘、蜷川みほ、山口祥行、谷村美月、岸谷五朗
主題歌:RAM WIRE「むつのはな」(Sony Music Associated Records Inc.)
原作:小手川ゆあ『アルカナ』(角川書店)
配給:日活
2013年/日本/89分/カラー/デジタル/5.1ch/シネマスコープ/PG-12
公式サイト:http://arcana-movie.com/
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