『HOMESICK』廣原暁監督インタビュー:自分達が生きていることと関係のある作品を作り続けたい
園子温や石井裕也ら、日本映画界でいま大きな注目を集める映画監督の商業長編デビュー作を製作してきた「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)スカラシップ」。今年、同スカラシップが世に送り出すのは、2009年『世界グッドモーニング!』で国内外の多数の映画祭において高い評価を獲得した廣原暁(ひろはら・さとる)監督の『HOMESICK』だ。
『HOMESICK』は、勤め先の社長が夜逃げしたことで突如無職になり、ひとりで住んでいる実家で無為に日々をすごす30歳の男・健二が主人公。堅実で“無理め”の希望は持たず、外の世界に出て行きたいという意識も希薄で、身のまわりに楽しみを見つけて満足・・・そんな“さとり世代”とも呼ばれる現代の若者の姿を象徴的に描く。閉塞感を滲ませながらも、爽やかで未来への広がりを感じさせるラストが作り手の清々しい感性を感じさせる本作は、このほど、10月3日~12日に開催される第18回釜山国際映画祭「アジアの窓」部門に出品されることも決定!今年は同部門にPFFスカラシップ出身の熊切和嘉監督の最新作『夏の終り』の出品も決まっており、“先輩”とともにアジア最大級の映画祭で世界の評価を受けることになる。
ポン・ジュノやジャ・ジャンクーからも絶賛される廣原監督は86年生まれの27歳。実際お会いしてもその年齢以上に若々しい少年のような面持ちに驚くのだが、まっすぐ映画を見つめ、考える姿勢が頼もしい。8月10日(土)からの劇場公開を前に、廣原監督にお話をうかがった。
―まず、映画監督を目指されたきっかけからお伺いします。
監督:高校までは映画を見たこともそんなになくて、「金曜ロードショー」などテレビで観る程度でした。けど、『キッズ・リターン』(96年・北野武監督)を高校生の頃に観て、テーマや内容も身近だし、すごい爆破シーンなんかもないし、なんとなく自分でも撮れるんじゃないかなって気になってしまったんですよね(笑)。しかも、すごく面白かった。映画って僕らと無関係なことだと思っていたんですけど、むしろ関係の深いものなんだって思いました。それが大きなきっかけでした。
―もともと何か表現するということはお好きだったんですか?
監督:いえ、一切。高校まではずっとスポーツをやっていました。急に大学で武蔵野美術大学に行きたいって言った時は、親にすごく反対されました。でも、一番上の兄がミュージシャンでドラムをやっていて、姉が靴のデザイナーで、2人とも海外の大学に行っていたんです。僕だけは真面目にやってくれるだろうと思われていたらしいんですけど、上の2人を見ているからか、両親も最後には“これぐらいいいだろう”みたいな(笑)。
―今回の『HOMESICK』のコンセプトは大学生の頃から頭にあったそうですね。タイトルが“HOMESICK”なのに、ずっと家にいるという発想が面白いなと思いました。
監督:これまでは、最後は今いる場所から逃げ出そうとする映画を撮ることが多かったんですけど、今回は、今いる場所に留まるような、同じ場所に留まり続ける映画を撮りたいなと思ったんです。
―私も若い頃は何をしたいかよく分からず、留まっているのがダメな気がして方々放浪していたので、妹さんの設定にすごく共感しました。
監督:主人公とその妹が持っているものは同じだと思っています。かたや、昔から居る場所にとどまり、かたや、世界中を飛び回るっていう。でも、探しているものは同じなんだろうなって思う。それを“居場所”って言っていいのか、分からないんですけど。ただ、主人公がそこに留まり続けるっていうのは、既に、どこへ行っても同じじゃないかっていう思いがあるからだと僕は思うんです。
―主人公が留まっているのも、妹が海外を放浪していられるのも、結局は“帰る場所”があるからなのだと思いますが、最後には立ち退きを迫られます。
監督:最初は立ち退きを迫られるっていう設定じゃなかったんですよね。ずっと1カ所にとどまり続ける映画を撮ろうと思っていたのに、途中から、なんだか、留まろうとすればするほど、最後は出なきゃダメだなという気になった。僕もちょっと前までは同じ場所でずっと生きてくってことが自然なことだと思っていたけど、留まっていられる保証もないだろうなって。震災以降は特にですけど。みんな、基本的には流浪の民なんだ、そういうところがあるんだなって思いました。
―子役たちが生き生き、自然に動いているのが印象的で、どう演出されていたのか気になりました。
監督:基本的には自由だったのですが、遊びのルールを作ったりはしていましたね。「これを持って来るのがお前の役目」とか言うと、わーって散っていくような。面白かったのが、廊下で子役2人がふざけているシーンがあって、もう1人は設定上、真面目にやっている子がいたので「お前は真面目にやってて偉いな」って言ったら、あとの2人から「俺らも芝居でやってるんだよ!」って怒られて、「ゴメン」って(笑)。みんなプロだなって思いましたね。
子供たちは結構フレームから出ちゃうのですが、それで「ここでこうやってくれ」とか言ってしまうと全然良くなくなるんですよね。何もできなくなっちゃって。なので、1つはルールを作るっていうことと、後はこちらで「あいつは、こういうことやるな 」と予測するっていうこと。お互いにいろいろ予測しあいながら撮っていった感じですね。
―そんな子供たちの芝居を受けての郭智博さんも、時折子供のような笑顔をみせて素敵でしたね。監督から観た郭さんの魅力は?
監督:何を考えてるか分からないところです。これは俳優さんの一番の魅力だと思っているのですが、秘密を持ってるってすごくいいことだと思うんですよね。撮影でそういうところが生きたのは、主人公が1人でいるシーン。何を考えてるか分からないですけど、ちょっとベッドで横になってうだうだしている感じが本当に魅力的。なんか妙な切なさを感じるんだけど、それを主張しないところがより切なさを助長するんです。
―本作が劇場デビュー作ですね。これから劇場用商業映画をどんどん撮っていかれると思うんですけど、自主映画とは違う、観客を広げるために監督として意識しなきゃいけないことって何か存在すると思われますか?
監督:自主映画もそういうところをみんな考えてやってるんだろうなとは思いますけど…あんまり商業映画っていう意識がよく分からなくって。そもそも映画って、作る以上は人に見せるものだし、誰かに届けるものなので。宣伝という段階になってくると、ターゲットの広がりとか、そういう話しになってくるのかもしれないですけど。映画の趣味ってほんとにみんなバラバラだし、それはそういうものだと思うんですよ。それを商業映画ということで…っていうのも、作り手としてちょっとおこがましい気もしてしまうんです。もちろん、基本的に面白いものを作っているつもりなので、映画である以上、それは変わらないんじゃないかと思っています。
―今年レオス・カラックス監督が来日した時の会見で、「映画を撮るときに観る人のことなんて考えない」っておっしゃっていて、こんな監督もいるんだと思いました(笑)。
監督:諏訪敦彦監督にも同じような質問をしたことがあります。「大勢の人に観てもらいたいって思ってますか?」って。「いや、思わない」「そんなに大勢の人の気持ちを受け止められない」って仰っていました。大勢って一体誰だ?ということは思ったりするんですよ。その大勢の人の顔は見えないですから。
商業映画かどうかということは分からないですけど、『キッズ・リターン』は観たときに、“自分達が生きてることと関係のある映画”だと思って、そういう作品を作り続けたいという気持ちはすごくあります。それは、別に身近な問題を取り扱うということではなく、映画を観ることで、生きてく上で何かヒントになることが見つかるってたくさんあると思うんですよね。
―お若いのにもうご結婚もされてお子さんも生まれたばかりですよね。映画監督って、決して安定した堅気の仕事じゃないと思うんですけど(笑)、この仕事をやっていくモチベーションって、廣原監督はどんなところから得ているのでしょう。
監督:いま、嫁に食わせてもらってるって言ってもいいぐらいなんですけど。そういう嫁は、大学時代から一緒に映画を作っていた仲間で、なんていうか…たぶん、映画作るのを止めたら離婚されちゃう(笑)。だから作るってわけではないんですけど、ちょっと託されてる感じがあるんですよね、「映画続けなさいよ」っていう。家族からそういう部分はすごく感じます。
―次に撮りたい映画のアイディアは具体的に何かありますか?
監督:どんな物語かはまだはっきりしていないんですけど、いまオリジナルで脚本を考えてはいます。ほんと、1週間ごとに、映画を見たり人と会ったりすると考え方がどんどん変わっていく。全然、地に足が着いてないんですけど、そういった中で、これまでのような“居場所”とかそういった問題とは離れて、ちょっと外に出た映画を撮ってみたいかなとは思っています。
Profile
廣原暁(ひろはら・さとる)
1986年生まれ、東京都出身。武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域修了。黒沢清、北野武に師事する。2009年京都学生映画祭で『世界グッドモーニング!!』が準グランプリを受賞。同作は翌10年、第29回バンクーバー国際映画祭ドラゴン&タイガー・ヤングシネマ・アワードでグランプリを受賞するなど、国内外の映画祭にて上映される。その他の監督作は『あの星はいつ現はれるか』(11年・オムニバス映画『紙風船』の第1話)、『返事はいらない』(11)など。
▼作品情報▼
HOMESICK
監督・脚本:廣原暁
出演:郭智博、金田悠希、舩﨑飛翼、本間翔、奥田恵梨華
製作:PFFパートナーズ=ぴあ、TBS、ホリプロ/東宝
配給:マジックアワー
8月10日(土)よりオーディトリウム渋谷ほか全国順次公開
※オーディトリウム渋谷のみ、「廣原暁 監督特集」同時開催
2012年/日本/98分
(c)PFFパートナーズ/東宝