公開目前!『3人のアンヌ』、ホン・サンス監督の魅力を菊地成孔さんが語る

菊地成孔さん(右)と日本映画大学准教授のハン・トンヒョンさん

 最新作『3人のアンヌ』の公開を記念して、オーディトリウム渋谷で6月7日(金)まで、ホン・サンス監督作の特集上映「ホン・サンス監督特集プラス・ワン」が行われている。

 特集上映2日目だった6月2日(日)、同監督のファンを公言している音楽家・文筆家の菊地成孔(きくちなるよし)さんのトークショーが開かれ、菊地氏はその魅力を、「ホン・サンスの映画は3種盛り。ゴダールの画面構築に、ロメールのストーリー、そして物語構造にすこしブニュエルという感じがします」と語った。

 一見どこにでもありそうな恋愛模様を、何気ないタッチで描くホン・サンスの作品には、古今東西、誰もが共感したり、イラッとしたり、自由に感情を添わせることの出来る余白がある。菊地さんもトークの中で、「露骨な3種盛り」だと述べつつも、「ただ、いまホン・サンスを見る観客たちが、その原材料となるそれぞれの映画のリテラシーがなくても楽しめると思うのでおもしろい」と分析。「ゴダール、ロメール、ブニュエルの3種盛りなどと言ってしまうと、アジア人にありがちな陳腐なオマージュやまがい物と思われてしまうかもしれないところ、ホン・サンスが怖いのは、その3種盛りの本家をもしかしたら超えてしまっているかもしれない思わせるところなんですよね」と賞賛した。

 さて、菊地さんが「一言で言ってしまうと熟女ものですね。兵役にいった韓国の男の子の大胸筋と、60才のヨーロッパ女性二の腕がぷるぷるした映画(笑)」と興味をそそる言い回しで表現するのが、6月15日(土)に公開初日を迎える最新作『3人のアンヌ』だ。

 フランスの名女優イザベル・ユペールを主演に迎え、韓国の海辺の街を舞台に、ユペールが演じ分けるアンヌという3人の女性―著名な映画監督、韓国人映画監督と不倫中の人妻、離婚したばかりの女性―と周囲の人々の、3つの異なる物語が進行する。その境界は非常に曖昧。ただ共通していることは、男たちがお尻を引っ叩いてやりたくなるほどグダグダしていることである。
 テロッとした普段着姿のアンヌは、お世辞にも男たちが揃いも揃って「ビューティホー!」と誉めそやすほどの華はない。しかし、この映画の男たちときたら、異国から来た女性というだけで幾重にもフィルターがかかっているらしく、この中年女性のお尻を行動や目線で追い回す。その褒め言葉のボキャブラリーの貧しいことといったらないのだが、現実世界で見たことのあるようなそうした光景に呆れつつ、またアンヌにも「一体何をどうしたいねん!」とツッコミを入れたとき、いつの間にかホン・サンスの世界に夢中になっていることに気付くという、恐るべき作品なのだ。グダグダと男の女(しかもダメなタイプの方)を描いているように見せて、実はそんな観客の反応まで計算されているのだとすると驚嘆する。

 とにかく一度、体験してみてほしいホン・サンスの世界。来る6月11日(火)、今度は『3人のアンヌ』を中心に再び菊地さんによるトークショーの開催が予定されている。場所は代官山蔦屋。詳細はコチラに。




3人のアンヌ
監督・脚本:ホン・サンス
出演:イザベル・ユペール、ユ・ジュンサン、チョン・ユミ、ムン・ソリ、ムン・ソングン、ユン・ヨジョン
配給:ビターズ・エンド
2012年/韓国/89分
公式HP http://bitters.co.jp/3anne/
6月15日よりシネマート新宿ほか、全国順次公開