瞳の奥の秘密

目は心の窓

第82回米アカデミー賞最優秀外国語映画賞に輝いた本作は、アルゼンチンを舞台にしたミステリアスなドラマだ。長年勤めた裁判所を退職した男が、25年前にブエノスアイレスで起こった殺人事件の真相を探るという筋立て。未解決事件の究明がドラマの求心力ではあるが、事件が第三者である主人公の人生をも左右してしまう「アナザーストーリー」の存在が、陰惨なサスペンスで終わることを回避している。なかなか面白い構成だ。

本作のテーマは、ズバリ「目は口ほどにものを言う」。
どんなに心情を隠していても、目には本当のことが表れてしまうのが人間だ。しかも、そういった本性や習慣、情熱、愛情、思想というのは案外変えられないもので、それが劇中も繰り返し強調されている。悪いヤツは悪いヤツだし、酒好きは酒好きだし、サッカーファンはどこまでいってもサッカーファン…(サッカー好きの私は大いに納得してしまう)。良くも悪くも、それは人間の性(さが)なのだ。だからこそ、ラストに主人公がたどり着く「変わろうとする決意」は非常に意味がある。

この映画は、アルゼンチン出身のフアン・ホセ・カンパネラ監督によるものであるが、いわゆる「ラテン的」なノリの映画ではない。また、猟奇殺人を扱う映画にありがちな、残虐な描写もほとんどなく、被害者となった哀れな女性の死体もどこか美しさを感じるほどだ。主人公と相棒(役者がウディ・アレンにそっくり!)とのやりとりも実に軽妙。一瞬、欧州映画を見ているような感覚になる。肝心なところをセリフではなく視線や仕草で観客に分からせる手法にも長けており、すんなりと腑に落ちる感覚が心地良い。役者陣の抑えた演技、そして脚本の巧さを感じさせる、「オトナ」の映画。そういった点にも是非注目してほしい。

オススメ度★★★★

Text by 外山 香織

【監督】フアン・ホセ・カンパネラ

【脚本】フアン・ホセ・カンパネラ/エドゥアルド・サチェリ

【原作】エドゥアルド・サチェリ

【キャスト】リカルド・ダリン/ソレダ・ビジャミル/パブロ・ラゴ/ハビエル・ゴディーノ/カルラ・ケベド/ギレルモ・フランセーヤ

『瞳の奥の秘密』公式サイト

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