『そして友よ、静かに死ね』震えるほどに切ない男の友情

2004年の『あるいは裏切りという名の犬』以来、久しぶりのオリヴィエ・マルシャル監督の作品は、男の友情を描いた期待通りの力作でありながらも単純な感動だけではない深い陰影を残し、心の襞に取り付く様な忘れられない映画となった。

引退し、今は家族と友人に囲まれた幸せな生活を営む伝説のギャング、モモン・ヴィダルの元に、かつて共に強盗を繰り返した親友セルジュが13年の逃亡の末に逮捕された事が伝わる。セルジュが麻薬取引で仲間のゼルビブを裏切り逃げてきた事を知り、最初は自業自得と言っていたモモンだったが、かつての親友を見捨てる事が出来ずに逮捕されたセルジュを救う。危険を冒してもセルジュをゼルビブから守るモモンだったが、セルジュと再び関わった事で、セルジュやギャング仲間と共に逮捕された過去の真実が次第に明らかになっていく・・・。

悲しさと気高さが同居するこの映画のラストについて語る事は避けたいが、この映画のテーマである男の友情については触れておかねばならないだろう。男の友情という物言わずとも分かり合わねばならない暗黙の約束がある物事について言葉を重ねる事が、無粋なだけであるというのは百も承知であろうとも。

監督のオリヴィエ・マルシャルは、元は警官だ。元警官がギャングの映画を作るというのは一見不思議だと思われるのかもしれないが、どちらも命がかかった仕事という共通点がある。勝手な推測ではあるが、監督は本当の友情というものは命がかかった場所でしか生まれないと感じているのではないだろうか。確かにそれ以外の友情は、口だけで何とでも言える部分があるのも事実かもしれない。真の男の友情とは何か、それは監督の生涯をかけたテーマなのだろう。映画の中の往年のギャングたちに刻まれた深い皺は、命をすり減らしながら生きた証。その皺には過去の友情と人生が刻まれている。それを裏切る事は、自分の人生を裏切る事。自分の過去を否定する様な行動を取るな、そう映画が観客に語りかけているかの様だった。

モモンが最後まで貫く友情には、言い様のない悲しさを感じてしまう。しかし、だからこそ美しく、揺るぎ無い信念を感じさせる。それは一般的な生活をしていればまず見る事のない種類の友情である。世の男性は、生涯に一度だけでもいいからそういう友情を得たいと憧れ、他人や社会がどうであっても自分だけは変わる事なく友情を貫く事の出来る人間でありたいと願うのではないだろうか。この映画は、こういう男でありたいと願う世の男性の、ひとつの理想を描いた映画なのだと思う。ぜひ、すべての男性に観て欲しい映画である。

▼作品情報▼

■出演: エドモン(モモン)・ヴィダル  ジェラール・ランヴァン

セルジュ・ステル              チェッキー・カリョ

クリスト                     ダニエル・デュヴァル

モモン・ヴィダルの青年時代  ディミトリ・ストロージュ

セルジュ・ステルの青年時代 オリヴィエ・シャントロ

マックス・ブロナー             パトリック・カタリフォ

ジョアン・シャベーズ         フランソワ・ルヴァンタル

ブランドン                           フランシス・ルノー

ダニー                                   リヨネル・アスティエ

ジャヌー                               ヴァレリア・カヴァッリ

■原作: 「さくらんぼ、ひとつかみで(直訳)」 エドモン・ヴィダル

■監督・脚色: オリヴィエ・マルシャル

■脚本: オリヴィエ・マルシャル

エドガー・マリー

■製作: シリル・コルボー=ジュスタン

ジャン=バティスト・デュポン

■製作総指揮: ダヴィ・ジョルダーノ

■音楽: エルワン・クルモルヴァン

■撮影: ドゥニ・ルーダン

■編集: ユベール・ペルサ

■美術: シリル・オゲル

2011/フランス/カラー/シネマスコープ/原題:Les Lyonnais/英題:A Gang Story

■配給:コムストック・グループ

■公式サイト:http://soshitetomoyo.com/

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