山崎バニラの活弁大絵巻2026 ~弁士25周年~

25周年、会場は大盛り上がり「ハイ、活弁」の合図で記念写真も

 

『ロイドの初恋』

(1924年/59分)
監督 サム・テイラー、フレッド・ニューメイヤー
出演 ハロルド・ロイド、ジョビナ・ラルストン
作品提供 株式会社マツダ映画社

前説
「最後にご覧いただきますのは1924年封切り『ロイドの初恋』です。邦題の『初恋』と物語が合っていない無声映画あるあるです。原題の「Hot Water」はやらかしてしまった状況を意味する慣用句です。ハロルド・ロイドはチャップリン、キートンと並ぶ世界三大喜劇王と呼ばれています。無声映画時代はドタバタコメディが主流でしたが、ロイドはシチュエーションギャグを大事にしていました。私みたいなわかりやすい奇抜なキャラクターではなく、ロイドはメガネをかけることでいかに普通の人に見えるかということを大切にしました。というわけで元祖メガネキャラクターと言われています。妻を演じるジョビナ・ラルストンは、実生活でロイドと結婚したミルドレッド・デイビスに代わり、1923年から6作品にわたりロイドの相手役を務めました。つまり、ロイド自身も本作撮影時に新婚だったということを頭に入れておいていただけますとよりお楽しみいただけるのではないかと思います。ピアノとカスタネット弾き語りでご覧くださいませ。」

『大学は出たけれど』の説明で、映画の中に出てきたロイドの映画ポスターを紹介し、すぐにロイドの映画が観られるという趣向が楽しい。そのポスターは『ロイドのスピーディー』。1928年製作の作品だったので、まさに『大学は出たけれど』製作中にやっていた映画となる。この作品はそれより4年前のものだが、結婚とその新婚生活を描いたという点でも実はリンクしている。どちらの作品でも生活は薔薇色とはいかず苦労をしているのだが、その苦労なりが全く違う。男女の関係性も全く違う。アメリカでは妻のために夫が必死に動き回り、日本では夫のために妻が奮闘している、しかも夫の影に隠れて。続けて観ると、その文化の違いが当時の人の目にどう映っていたのか、そんな想像もしてみたくなる。

この映画は、3部構成になっている。1部は、妻に買い物を頼まれたロイドが、沢山の荷物を持て余しバスの乗客に迷惑をかける騒動。2部は月賦で買った新車が届き、妻と、家を訪ねてきていた、義理の母、兄と弟(子供)、家族そろって出かけるが、運転がうまくいかず廃車になってしまうまで。3部が、義理の母を誤って殺したと勘違いしたロイドが巻き起こす、ひとり相撲の大騒動。1部と2部それぞれにギャグの種を蒔いておき、それが3部できちんと回収されて笑いを引き起こす。従って後半にいくほど可笑しさが増し、盛り上がるという凝った作りになっている。

「今日からまた新たな生活が始まろうとしていた」冒頭から結婚行進曲ふうなメロディを、葬送行進曲ふうなマイナーな音階でピアノを弾き、ロイドの人生のこれからを暗示していて秀逸。1部は、カニがスボンの中に入るというギャグに対してバニラさんが「なぜか無声映画あるある」とツッコミを入れたのが示すように平凡な展開だが、ここが弁士の見せどころと言わんばかりにツッコミを入れまくる。妻の頼んだ買い物リストがダブっているところは、絶対に説明されなければ気が付かないし、また、その中の「手頃な」ケーキがぐちゃぐちゃになっていくさまは、これがあるからこそ可笑しい。さらにはニンジンを食べているのに対して「ニンジン頼まれていましたっけ」と、ロイド本人も気が付いていないはずの行動をもギャグにしてしまう。ただツッコむだけでなく、それを三段活用して、笑いを盛り上げていくのだ。

第2部では、ロイドの滅茶苦茶な運転ぶりが、笑いを呼ぶ。よそ見運転をしたり、義母のスカーフが風にそよいでロイドの目をふさいだり、挙句の果てにバイクと無謀な競争をしたり。バニラさんは、バタフライシックスという名前の車が、蝶々の模様でロゴを隠してはいるが、実は1923年製のシボレースピリアで、時速が80キロ出ることをトリビアとして紹介し、バレエ組曲「ガイーヌ」の剣の舞を、またカスタネットとピアノのひとり二重奏!で、車のスピード感を表現し、笑いをパワーアップさせている。車が壊れた後、映像では、悲嘆にくれる家族それぞれの表情が映されるだけなのだが、バニラさんにかかると、その嘆きの中身がみんな自分勝手で可笑しい。特に妻の「あー、59回もローンが残っているというのにー」は、切実すぎてたまらない。「この日唯一壊れなかったものは、帰り道の沈黙のみ、弁士はちょっと休憩」と、レッカー車に引っ張られた車に、家族が疲れたような表情で乗って家に帰るシーンでは、弁士も無言を貫く、その寂寞感がまたいい。

第3部は全編家の中。バニラさんはここでも、妻役のジョビナの髪が、結婚後ショートになっていたはずなのに、なぜかまたロングになっていることへのツッコミを忘れない。観客の、なんだか気になってはいるけれどちょっとどうだったかなぁ、みたいな部分をきちんとくすぐってくれている。

トラブル続きで何とか義母たちを家に帰したいロイドが、なぜか家にあるクロロフォルムを見つけ、ズケズケものを言う義母を少しおとなしくさせるつもりで使用したところ、ぐったりしてしまい、もしや殺してしまったのではないかとひとり大騒ぎする大騒動が、クライマックス。サイレント映画でありながらロイドは、音によるギャグを展開する。隣の部屋の声が、ロイドをどんどん追い詰めていくのである。転んだ子供の泣き声…もうだめなのか。ネズミに驚き「キャー、ママー戻ってきてー」…とうとう亡くなったか。交通違反の切符を勘弁してもらえないかと電話で頼む義兄の声「義弟はそんなつもりはなかったんだ。」…いよいよ逮捕されるのか。外に置いてある車が駐車違反であると、警官がドアをノック…もう逮捕しに来たのか。こんな具合である。バニラさんの声のタイミングが絶妙で、実のところサイレントであることを忘れて見入ってしまっていた。場内は爆笑の渦。

義母の目が覚めると、今度はロイドは彼女を幽霊と勘違いする。雑誌「幽霊の世界 死者は戻ってくる」というのが転がっているのを目にしたばかりだったからである。義母役のジョセフィーヌ・クロウェルの夢遊病者特有のトロンとした顔がたまらない。まるで催眠術をかけられた人みたいに歩くさまが、確かに幽霊のように見える。ロイドがドアを開けた瞬間に、その向こうにボーっと現れるさまは、ほとんど往年の怪奇映画のノリ。バニラさんは、ピアノの演奏を止めて一瞬シーンとさせるなど緩急を使いながら、映像に合わせて笑いのタメを作っていく。飼い犬(もちろんポチです)のリードがロイドの足を絡め取る。ネズミが手袋に入って動き出す。「元祖アダムズファミリー」と、バニラさん。ロイド邸はまるでお化け屋敷に。会場内は大人だけでなく、子供たちの笑い声が止まらない。悲鳴に近いトーンでキャッキャッ笑っている。まるで昔やっていた「8時だヨ!全員集合」の会場のように。これぞ、劇場で映画を観ることの幸福なのだ。騒動が終わって平和が訪れる。「楽しきわが家、ホーム・スイート・ホーム。ようやく平穏な新婚生活が始まろうとしている。」…『大学は出たけれど』とは随分違うが、これもまた、新たな一歩を踏み出す喜びで締めくくられる映画だったのである。

笑いの余韻が残る中、終映後には25周年の節目ということで、「ハイ、活弁」の合図で、客席をバックにお客さんとバニラさんとの記念写真が撮られたり、フォトセッションが行われたりした。25周年、山崎バニラさんにとっても、ここからがまた新たなる挑戦、スタートになっていくのだろう。

今後の出演予定

びわ湖の春 音楽祭2026 ~誘い~
2026年4月26日(日)18:40~20:00
■会場:滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール 大ホール
モーツァルト :歌劇『フィガロの結婚』ハイライト
(演奏会形式)案内役
■チケット
S席:2,750円/A席:2,200円
18歳以下 S席:1,650円/18歳以下 A席:1,100円
■発売日
友の会:3月16日(月)10:00~
一般:3月21日(土)10:00~
■お問合せ:びわ湖ホールチケットセンター
077-523-7136

山崎バニラ(やまざき ばにら)プロフィール

(活動写真弁士)
活動写真弁士。2001年、無声映画シアターレストラン「東京キネマ倶楽部」座付き弁士としてデビュー。独特の声で大正琴とピアノを弾き語る独自の芸風を確立。2022年からはフラメンコ用カスタネット(パリージョ)も取り入れる。
2012年~こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロで独演会「山崎バニラの活弁大絵巻」を開催。
2018年~東京国際映画祭ユース部門で活弁を披露。
2019年公開、周防正行監督『カツベン!』に出演。
2021・2022年上演、オペラ『美しきまほろば~ヤマトタケル』道化役。
2021・2022年放送。清泉女子大学のスペイン語学科卒業の経歴を生かし、NHKラジオ『まいにちスペイン語~マサトのマドリード日記』でコーナーを担当。声優としてもアニメ『ドラえもん』ジャイ子役他出演作多数。宮城県白石市観光大使。パソコンで動画・音楽・アニメ・ホームページを自作する。
著書に『活弁士、山崎バニラ』。2026年活動弁士生活25周年を迎えた。
(オフィシャルサイトより転載)

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